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ケアマネジャーの実践に活かすヒント集

 本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
 コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。


第19回 ケアマネ実践のヒント(10)「困難事例」解決の手がかり

吉田光子

郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。

困っているのは誰?

 ケアマネジャーさんと話をしていると、しばしば「困難事例」という言葉が出てきます。皆さんは困難事例と聞いて、どんな利用者やケースを思い浮かべますか?
 どこから手をつければいいのか迷うほど、いろいろな問題を抱えている方でしょうか? それとも、支援をしていて大変だなあと感じる方でしょうか? あるいは、利用者と支援者のずれを感じてしまう事例でしょうか?
 どのようなケースにせよ、「困難事例」に向き合う際、私はまず「困っているのは誰?」と考えることにしています。利用者、家族、サービス担当者、地域の人々、ケアマネジャー自身……。実際に「困難」を感じているのは誰なのでしょうか?
 それと同時に、「何に困っているの?」と考えます。すると、ケースを「困難」にしている要因がいくつか思い浮かびます。サービスを利用しても思ったような効果が現れない、ADLは向上しているのに生活の実態は変化がない、利用者・家族からの要求に対応しきれない、サービス事業者から聞いたことと利用者・家族から聞いたことが食い違う、ケアプランの原案になかなか同意してくれない、説明しても理解してくれず手間がかかる、一方的に話をされて時間ばかりかかってしまう……。
 これらはすべて実際の支援においてありがちなことですが、お気づきになったでしょうか? これらの大変さは、すべて“ケアマネジャーが”困っていることばかりなのです。
 そう考えると、「困難事例」だと思われている事例の多くは、「ケアマネジャーが困っている事例」ではないでしょうか? そして、その中身をよく見てみると、ケアマネジャーと利用者が充分に理解し合えていないためにもたらされることが多いように思います。一つずつ見ていきましょう。

ケアマネジャーが困る「困難事例」からの脱却

サービスを利用しても思ったような効果が現れない

 まずここでいう「効果」とは、誰にとっての効果なのでしょう。それは、利用者の望んだものでしたか? はっきりとした具体的な目標をもっていましたか? その目標は、利用者の実感に添うものでしたか?
 例えば、通所リハに通っている利用者の目標が「下肢筋力を維持向上する」では、何をもって効果とするのか、それが生活の上でどんなメリットをもたらすのかわかりませんよね。これが「下肢筋力を向上させて、自力で庭を歩けるようになる」ならば、そしてそれを利用者が望んでいれば、きっと効果が現れるでしょうし、本当の目標は下肢筋力の向上ではなく「一人で庭を歩く(庭へ出られる)」ことだというのがはっきりするでしょう。

ADLは向上しているのに、生活の実態は変化がない

 これは、前例に挙げた具体的な目標がわからない場合の典型的な状況といえます。例えば、仮に「下肢筋力の維持向上」が達成できたとしても、それを実際の生活場面においてどう活かされるかという関連が見えていなければ、生活の変化は望めません。場合によっては、介護者が不安がって歩かせないことも考えられますし、具体的な身体の使い方や対応の仕方がわからないだけかもしれません。

利用者・家族からの要求に対応しきれない

 この場合は、まず要求の中身の問題と、介護支援専門員の業務に関する共通理解の有無が関係してきます。利用者がきちんとケアマネジャーの仕事を理解しているにもかかわらず、その範囲を超える要求をしてくるのであれば、これまでのかかわり(前任者を含めて)を点検してみる必要があるでしょう。もしかすると、前任者が暗黙の了解のなかで業務の範疇を超えた要求を受け入れていたのかもしれません。あるいは、どれくらいの要望に応えてくれるのかを試されているのかもしれません。

ケアプランの原案になかなか同意してくれない

 いくら専門職として最高の計画を立てたとしても、それが利用者の視点から作成されたものでなければ、利用者や家族は“自分のため”の計画とは思わないでしょう。まずは、相手の話を充分に聴いて、今感じている、その方が今感じていることをもとに計画を作ることが大切です。

 いかがでしょうか、「困難事例」を解決する手かがりは見つかりましたか? いわゆる困難事例といわれるケースには、自分自身を振り返り見直すだけで解決できるものも多いと私は考えています(もちろん、それでも解決できない問題もたくさんあること、誰が取り組んでも結果が変わらないケースもあることは忘れてはいけません)。一番大切なことは、あきらめずに努力を継続していくことです。

〔吉田光子先生の著作〕

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