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ケアマネジャーの実践に活かすヒント集

 本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
 コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。


第20回 困難事例への具体的なアプローチ(1)精神疾患を持つ家族

吉田光子

郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。

「介護している家族に精神疾患がある」!?

 ある利用者の前任者から引き継ぐ際にそう聞かされたら、あなたはどんなことを想像しますか? 一体どんな状態なのだろうとか、ちゃんと介護できているのだろうかとか、不安になってしまう方が多いのではないかと思います。
 しかし、「介護者に精神疾患がある」という情報だけで「困難事例」と決めつけてしまってはいないでしょうか。
 精神疾患といってもさまざまな病気があり、その症状も生活への影響も人それぞれです。一概に「困難事例」と決めつけるのではなく、どんなことが起こる可能性があるのかについて考えておくことが重要です。

個別の疾患の状況を知る

 私たちは、知らないことを恐れる傾向をもっています。例えば、比較的よく出会う脳梗塞や脳出血による片麻痺の方の場合、たとえ感情失禁があってすぐ怒ってしまうとしても、それほどびっくりしたり、支援を困難に感じたりはしていないと思います。しかし、ALSなどの難病をもっていたりする方の支援は、当初とても不安で、支援していく自信をもてなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 精神疾患も、難病のように比較的出会うことが少ないことと、何となく触れてはいけないような気持ちのせいで、きちんと言葉にして確認したり分かりあったりする機会をつくれていないだけなのかもしれません。案外、ケアマネジャーの側が壁を作っているだけという可能性もあるのです。
 ケアマネジャーが利用者を担当する場合、通常は介護者の健康状態もアセスメントの対象ですよね。同じように、疾患が何であれ、ケアマネは介護者の状況をきちんと見極める必要があります。それがたまたま精神疾患だったに過ぎないのです。

介護の必要性と介護者の状況をアセスメントする

 介護者が何らかの疾患をもっている場合、私たちがまずアセスメントすべきことは、利用者がどんな介護を必要としているかと、現時点でそれが誰の手によって実施されているのかです。例えば、サービスを利用しているのか、家族が介護をしているのか、家族のうち誰が担っているか、といった事柄です。さらに、現状十分な介護になっているのかを確認しましょう。
 次に、介護者の疾患が介護に影響を与えるものなのかどうかを確認しなければいけません。ここでもう一つ大切なことがあります。それは、急に介護が必要になってしまった場合には、利用者本人も介護者も不安でいっぱいかもしれませんが、介護が必要になってからの期間が長い場合には、案外上手にできていることがある、ということです。つまり、当事者である利用者と介護者が現状をどのように受け止めているのかという点も、押さえておかなければならない大切な視点です。
 そして、介護者の疾患は今後変化することが予想されるのか、その変化によって介護状況に影響が出るのかといったことをしっかりと把握しておかなければなりません。
 これらのアセスメントができていれば、あとはそれぞれの状況に合わせたケアプランを作成することができるはずです。

勝手な想像を膨らませない

 前述のとおり、人は経験の少ないことに対して不安を抱きがちです。そのうえ私たちは報道などから、さまざまな精神疾患をもつ方が時に事件を起こしてしまうというイメージをもっているため、勝手にそのイメージを目の前にいる介護者に重ねてしまうことがあります。つまり、実際には何の問題も起きていないのに、ただ病名から「何かが起きるかもしれない」という漠然とした不安をもち、想像力をたくましくして、最悪の出来事を心配するのです。
 変化の兆候をどうとらえるのか、どんなときに何が起きそうなのかを具体的に知ること。それが起きた際の対応の手順を利用者、介護者、利用サービスのスタッフと情報共有すること。小さな変化のうちに手を打つこと。それって、ごく普通のケアマネジメントではありませんか。

〔吉田光子先生の著作〕

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