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ケアマネジャーの実践に活かすヒント集

 本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
 コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。


第8回 相談援助の心構え(4)説明と同意

吉田光子

郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。

失敗談

 今回は、皆さんの仕事のヒントとして、私の失敗談を一つお話ししたいと思います。
 平成12年の秋、介護保険の怒濤のスタートから少し過ぎ、ちょっと余裕も出てきた頃のことでした。新しく認定がおりた利用者のアセスメントが終わり、ケアプランに沿ってサービスを開始した直後、サービス事業所から1本の電話がありました。
 「○○さんに、今日ヘルパーが来るなんて知らなかったと言われてしまいました。利用開始日のことは、ちゃんと説明してくださいましたよね?」。──利用者には居宅サービス計画書も利用票もお渡ししてあり、その日はヘルパーさんが行くことになっているということも説明したつもりでした。その時の私には、何が起きたのか理解できませんでした。

説明と確認の大切さ

 なぜ、こんなことが起きてしまったのでしょうか? 理由の一つは、私の話し方の癖でした。私は早口なので、はじめてお話しする際には気をつけてゆっくりと話すようにしていましたが、慣れてくるうちに次第にいつもの早口になってしまっていたのです。そのためサービスに関する説明のなかで、いつから開始になるのかがちゃんと利用者に伝わっていなかったのでしょう。
 もう一つの理由は、少し慣れてきた頃という時期にあったと思います。最初のうちはケアマネジャーという全くはじめての仕事に緊張して取り組んでいたのが、少し余裕も出てきて手順や段取りがわかってきたために、相手もわかっているように錯覚してしまったのです。「説明した」だけで終わってしまい、「理解できたか確認する」ことをおろそかにしていたのです。
 説明しただけでは、ケアマネジャーの仕事は終わりません。自分が説明したことをわかっていただけたか、つまり分かるような説明ができたかを、常に自分へ問いかけ続けていただきたいのです。

同意するとは

 振り返って考えてみると、この利用者が同意してくださったのは私が提示したプラン全体に対してだけだったのでしょう。介護保険の利用というはじめての体験のなか、たくさんの書類を渡されて署名を求められ、何がなんだかわからないなかで、なんとなくケアプランというものの説明を受け、同意してくださったのだと思います。もしかしたら、「同意したふり」をしてくださったのでしょう。
 利用票の具体的な中身、すなわちサービスがいつからどのように提供されるかに関しては、同意する機会もなかったのです。ですから○○さんにとっては、ある日突然他人が家にやってきたという思いだったのだろうなと、今になってみればわかります。
 相手が理解していることをきちんと確認した説明があって、はじめて利用者は自分がどうしたいのかを考えることができます。そうなれば、自分の意思で同意するかどうかを判断できるでしょう。それこそが自立支援であり、自己決定の保障なのです。
 私たちの仕事ははじめが肝心です。充分に時間をかけ、利用者・家族に配慮をしながら説明をしてください。そして、ご理解いただけたか、自己決定したうえの同意であるかを見極めていただきたいと思います。皆さんは、くれぐれも私と同じ轍を踏みませんように……。

〔吉田光子先生の著作〕

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