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ケアマネジャーの実践に活かすヒント集

 本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
 コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。


第6回 相談援助の心構え(2) 「聞く」と「聴く」

吉田光子

郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。

「聞く」と「聴く」

 前回、「相手の話を聞くこと」について触れました。今回は少し掘り下げてお話をしたいと思います。私たちの仕事の基本は、相手の方のお話を「きく」ことです。ではここで、ちゃんと「きけているか」について考えてみましょう。
 皆さんがちゃんと「聞いて」いることはわかっています。しかし、「聴いて」いますか? この「聞く」と「聴く」の違いを意識したことはありますか?
 私たちは、たくさんの話を伺いながらさまざまな情報を集め、利用者や家族のことを第一に考えて、仕事をしています。それなのに、なかなか提案を受け入れてもらえなかったり、希望に添ったプランのはずなのに利用していただけなかったりすることがあります。
 実はこんな時には、「聞いた」話を元に作ったプランであったために、利用者・家族の言えなかった思いや事情を考慮できていなかった場合があります。たとえば、ある利用者にデイサービスの利用を勧めた場合を考えてみましょう。他人のなかにいると気疲れしてしまう利用者であれば、どんなところなのか、また誰がいるのかわからずに不安を感じてしまうかもしれません。でも、自分のことを思って熱心に勧めてくれるケアマネに遠慮して、不安を伝えられない──いかにもありそうな話ではないでしょうか。
 では、どうしたら本音を「聴く」ことができるのでしょう。手がかりはちゃんとあります。私たちがそのことを知っていて、注意を払うことができれば、隠された本音を「聴ける」ようになるのです。

言葉にしていることがすべてではない

 もったいぶってないで早く教えてほしいという方も、ちょっと待ってください。先に、なぜ利用者や家族ははじめから本音を話さないのかを考えておきましょう。あえて本音を話さない(意図的に隠す、言いたくない)こともありますが、話したくても話せない(言っていいかわからない、ためらいがある)場合もあります。
 皆さんにもこんな体験はないでしょうか。はじめての人に会うと緊張して、思っていることをうまく伝えられない。ある特定の人の前だといつもの自分が出しにくい。心配事やつらいことがあると話をしたくなくなる。うまく伝わらなかったり聴いてもらえていないと感じると、どうせわかってもらえないだろうと思ってしまう。
 ケアマネジャーである前に私たちも一人の人間ですから、きっとこうした体験がおありだと思います。それを手がかりにしてほしいのです。言葉にしていることが人の思いのすべてではない、ということを理解していただけるはずです。

相手の話を聴くとはどういうことだろう?

 ケアマネジャーは利用者・家族から話を聞いて、その意向をつかみ、援助方針を立ててケアプランを作る仕事をしています。その最初にすること=「話を聴く」ということですが、単に「聞く」のではないのです。つまり相手の言葉を「聞く」、表面的な内容を受け止めることと同時に、その発言の意図や背景を理解しようと考えながら「聴く」ことが必要なのです。
 加えて、多くの場合、人は常に本音を話すとは限りません。むしろその場にふさわしいかどうか、相手が理解してくれるかどうかなどを考えながら、話す内容や表現を変えているはずです。まして、初対面であればなおさら本音は隠して、当たり障りのない話になりがちです。
 私たちがどんなにアセスメントのために話を聴きたいことや、それが必要な理由を熱心に伝えたとしても、まだよく知らない相手に自分のできない部分や隠しておきたい部分を話すことには抵抗があるものです。そうした気持ちを理解し、たとえ事前情報と違っていたとしてもそれを指摘するのではなく、違っていることを一つの情報として理解して聴くことが大切です。

「聴く」ために

 「聴く」ために必要なことはいくつかありますが、相手の表情や声の調子に注意を払うことはその一つです。それらが話の内容にマッチしていれば、ある程度本音で話してくれているのだと判断できます。しかし、違和感を感じたらそこで立ち止まり、再度丁寧に説明したり、あるいは質問したりと、その違和感の正体を確認する作業が必要になるでしょう。
 こうした小さな違和感をキャッチし、確認していくにはある程度の経験が必要です。でも、もし話がしっかりと聴けなかったとしても、皆さんが相手の方に敬意を払い耳を傾けていれば、その姿勢はちゃんと相手に伝わります。自分を知ろうとしてくれている、表面に現れたこと(言葉)だけでなく、その背景(感情)にも興味関心を持っていてくれる、と。「聴く」ことはあなたへの信頼につながるものなのです。

〔吉田光子先生の著作〕

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