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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

「にわか愛国心」降臨


目からウロコのバスケットボール

 日本代表のアカツキジャパンが、FIBAバスケットボールワールドカップ2023で、48年ぶりとなる自力でのオリンピック出場を決めました。バスケットボールに疎い私も、テレビで観戦し、思わず声を上げて応援しました。まさに「にわか愛国心」降臨です。

 加えて、俳優の満島真之介さんがニュース番組で、バスケットボールの基本的なルールから、日本代表の何が優れていたのか、非常に分かり易く解説しておられたので、私の日本代表へのイメージは180度変わりました。まさに目からウロコです。

 これまでは、日本人は背が低くて不利なので、国際的に活躍するのはまず難しいだろう、と勝手に思い込んできました。しかし、今の日本代表は、この不利を非常によく練られた戦術によってはねのけ、快進撃を続けているのだそうです。

 代表的なのはスリーポイントシュートです。離れたところからシュートを決めると3得点できるかなり「お得」な技なのですが、実は、狙いはそれだけではありません。ゴール前で待ち構える相手の長身選手を「誘き出す」のだといいます。

 ゴール前に長身選手がいなくなれば、背の低い日本選手もゴールに切り込めますし、スリーポイントシュートを失敗しても、リバウンドを取りやすく、得点する可能性を残せます。なるほど「一粒で二度美味しい」とはこのことです。

戦術的な発想

 戦術的な発想は、虐待事例への対応上とても参考になります。実際、先読みしたうえで虐待者に選択肢を示すことはよくあります。たとえば、母の持ち家に同居する息子が身体的にも経済的にも虐待している場合の例です。

 息子に、虐待行為を「止めない・止める・一部止める」という選択肢を出して選んで貰うのですが、但し書きがつくのがミソです。「止めない」なら、母には成年後見人をつけて自宅を売却のうえ長期入所するため、息子は住む所を失います。

 一方で、何らかの必要があり虐待行為に及んでいる息子には、にわかに「止める」というのも選びにくいものです。結果的に、身体的虐待を止めて母が必要な在宅サービスを利用できるようにする、つまり「一部止める」という選択肢に誘導され易くなります。

 もっとも「止める」と言いつつ「止めない」人もいます。その場合には、虐待行為を3回確認したら「止めない」を選んだと判断します。1回は偶然の可能性が大、2回は偶然・蓋然の可能性が半々、3回は蓋然が大だからです。

 ところで、沢山の練習を前提とする戦術的発想もあります。「ワンオペの悲劇」に陥るのを防ぎ、虐待を未然防止する「チーム介護」はその典型です。何しろ「メンバー同士が必要即応で助けたり助けられたりする」戦術ですから、徹底的な反復練習が必要です。

 ですが、練習に際して是非お手本にしたいことがあります。それは、チームスポーツの選手交代には、好不調だけではなく休憩と回復にまで配慮が及んでいるという点です。

「曹操は策に溺れましたヨ…」
「そんなに卑屈にならなくても…」