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再録・誌上ケース検討会

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


第28回 サービス利用に消極的なクライアントにどうかかわるか
(2001年5月号(2001年4月刊行)掲載)

スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

事例提出者

Oさん(在宅介護支援センター・ソーシャルワーカー)

ケースの概要

 この事例は、介護保険の認定調査だけしておけば、いざというときに安心だと、親戚(姪)に説得されて市へ認定申請を行い、当支援センターへ調査依頼が届いてかかわり始めたケースである。介護者である妻にはサービスの利用希望がなく、これまで定期的訪問による状況観察という形をとってきた。

ケース紹介

氏名・性別:S氏、男性
年齢:大正5年4月生まれ(84歳)
既往歴:高血圧・慢性腎不全・前立腺がん
要介護度:要介護4
生活歴:戦前から写真スタジオを営んできた。小学校の行事等の写真を担当し、80歳まで現役で働く。趣味はゴルフで、昔からスケートをするなどハイカラな人であった。自宅のある地域は医者や弁護士の多いところ。介護は家族でという考えが強く、今まで過ごしてきた二人での生活のペースをかき乱されたくないという思いがあるようだ。
身体状況
 平成11年1月、前立腺がんの手術を受ける。その際、妻は病院に泊まり込んで付き添う。8月、退院。そのまま自宅で寝たままの状態(身体的には寝ている必要はないと思われる)となった。S氏はかなり耳が遠く、大声や「もしもしフォン」を使用したり、筆談でコミュニケーションをとる必要がある。大きな目をきょろきょろさせて人当たりはよい。日中はほとんどベッドに横になり、新聞を読んだりテレビ画面を見て内容を想像しながら過ごす。ベッドから出るのは、ポータブルトイレを使うときと入浴の介助を受けるときのみである。

  • ・尿意・便意―あり
  • ・排泄―妻がいるときは介助を受けながらポータブルトイレを使用。妻の不在時はおむつにしている。
  • ・嚥下―問題なし
  • ・食事―配膳されれば自力摂取可能
  • ・痴呆―なし
  • ・薬の管理―自分でできる
  • ・金銭管理―自分でできる

プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。