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ケアマネジャーの実践に活かすヒント集

 本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
 コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。


第15回 ケアマネ実践のヒント(6)相手の生き方と関係から力を見積もること

吉田光子

郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。

事例を通して考える

 いきなりですが、あなたがケアマネジャーとして次の事例のような方を担当した場合、どのように判断するでしょうか。考えてみてください。
 80歳の夫と78歳の妻の二人暮らし。子どもはいるものの離れて暮らしており、日常的な支援は得られない。夫は耳が遠いほかは特に問題はないが、妻は2年前に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、現在要介護1の認定を受けている。二人とも自分たちのこれまでの暮らし方にこだわり、サービスの導入には拒否的であるが、現在は訪問看護のみ受け入れている。
このところ、妻が入浴を一人でできなくなってきている上に、嚥下障害も目立ち、訪問看護により点滴を行って水分や栄養を補っている。訪問看護師によると、妻が夫に気兼ねして何も頼もうとしない、とのこと。ケアマネジャーの目からも、夫の独善的な言動につき従う妻という印象が強い。
 この夫婦の今後の生活支援を考えるうえで、皆さんはどこに着目して、夫婦の生きる力を見積もりますか? また、どのようなことがその力を引き出すと思いますか?
 まず、この夫婦がどのように生きてきたのか、その生き方を継続することが「力」となるのか──この点を手がかりに考えていきたいと思います。
 夫に「独善的な言動」があり、妻は「それにつき従う」という、この夫婦の生き方をどう判断するかが、力の見積もりに影響します。表面的には少し危うさを感じるところでしょう。妻の状態や能力を無視して夫の決定がなされた場合に、生命に影響を及ぼすことが考えられます。また、妻がこうした生活習慣に対して不満を抱いている場合、いつその不満が爆発するかもわかりません。

夫婦の結びつきの見積もりがカギ

 こうした危うさを押さえる一方で、見逃してならないのはどこでしょうか? それは夫婦の結びつきです。互いを大切に思っていれば、一見独善的に見える決定であっても、それは妻のための選択のはずです。ケアマネジャーが情報サポートを行うことで、適切な判断ができるかもしれません。また、一見我慢しているだけに見える妻の姿勢が「生き方の姿勢」、すなわち自己実現の発露であれば、不満が爆発するようなことは生じません。夫の決定を受け入れ、夫を支える妻であり続けたいと願うでしょう。
 長い歴史を持つ夫婦の生き方を、昨日今日出逢ったばかりの私たちが変えることは不可能です。だとすれば、まずはその生き方の延長線上に、これからの生活の目標を置かなければなりません。「今までの生き方を否定」され、「新しい生き方を強制」されることによって奪われかねない「生きる力」、これを持ち続けることができるかどうかは、私たち相談援助職の姿勢にかかっているのです。

本人の目線から見る

 何が伝えたいのかというと、この夫妻のケースのような場合、私たちケアマネジャーは表面的な力関係や行動だけで判断するという間違いを犯してしまいがちだということです。
 例えば、夫から離れる時間を作るために妻にデイサービスの利用を提案しても、夫に「自分がする」と断られてしまったことはありませんか。嚥下機能の落ちた妻のために飲み込みやすい食事を指導しているのに、夫が作りやすいものや買ってきたものに偏ってしまうことはありませんか。このような関わりがうまくいかない理由の一つは、表面的な課題だけに着目してしまっているからなのです。
 この二人はお互いに相手を傷つけようとしているのでしょうか? 妻は夫に反対できないから黙っているだけなのでしょうか? もしかすると妻を心配してそばにいることを夫が選んでいるのかもしれませんし、夫の家事能力をわかっている妻は、その取り組もうとする姿勢だけで満足しているかもしれないのです。
 どうぞ、自分の価値観から判断するのを止めて、お二人のことを見てください。夫婦が共に歩んできた年月に思いを馳せてください。そして、二人の大切にしていることを想像してみてください。その上でもう一度今の生活をを見つめれば、どのように「生き続けていきたい」のかが、わかってくると思います。それははじめに思い描いたものとは違っているかもしれませんが、納得のいくものではないでしょうか?
 現在は人の手を借りないと生活が立ち行かなくなっているとしても、高齢者はだてに何十年も生きてきたわけではありません。その方の持つ「個別的な」生きる力を探し、それを活かす支援を考えていきましょう。それが、私たちケアマネジャーの専門性といえるのだと思います。

〔吉田光子先生の著作〕

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