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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第18回 コーチングを極める

コーチは高級な馬車

 代表的な質問の流れを三つ紹介しましたので、コーチングを具体的にご理解いただけたと思います。ちなみに、英和辞典で ‘coach’ という言葉を調べると、「公式行事用の馬車」という意味が最初に出てきます1)。つまり、相手を物や家畜としてではなく人として扱い、ゴール(問題解決)まで大切に運ぶものがコーチなのです。ところが、さらに英和辞典をみていくと、「競技・演技の指導者」という意味も出てきます。つまり、人として大切に扱うだけではなく、逆に乱暴に扱うものも含めて、さまざまな指導者をコーチと呼ぶようになりました。そこで、指導方法の全般がコーチングだと理解する人が後を絶たず、ティーチングとは対照的な方法としてコーチングを提唱したウィットモアは、「残念なことに、従来通りの方法にコーチングという名称をつけるケースが出てきた」2)と嘆いたのです。

「ほめる」は「叱る」とともに依存行動を招く

 多くの人が「ほめるのもコーチング」と信じていますし、そのように教えるコーチングセミナーの講師が少なくありません。ところが、ウィットモアは「ニンジンとムチで人をロバのように扱えば、ロバのようにしか行動しない3)と述べており、ほめたり叱ったりする教育方法を批判しています。ほめられると誰でも気分がよくなりますが、ほめるは叱ると表裏一体であり、「ほめられるからやる」とか「叱られるからやる」という、依存行動を招くことになります。それに対して本来のコーチングは、ほめられようが、叱られようが、無視されようが、やるべきことをきちんとする自立した行動へと導くのです。また、ほめるは叱るとともに、上から目線のかかわり方であり、相手を家畜や子どものように扱うことになります。それに対して本来のコーチングは対等なかかわり方であり、相手を理性的・合理的な思考能力を持つ大人の人間として扱うのです。

「がんばるコーチング」と「がんばらないカウンセリング」

 「ほめるコーチング」よりも奇異なのが、「心を癒すコーチング」です。多くの人を傷つけたベトナム戦争が終わる1975年以降、カウンセリングブームが始まりました。それは「心の癒しブーム」や「がんばらないブーム」と形を変えながら、20世紀の終わりまで続き、福祉、医療、教育などの各分野に大きな影響を及ぼしました。その反動として21世紀に入ると、がんばる人を支援するコーチングがブームになったのです。ところが、このようなブームの流れを知ってか知らずか、両ブームに影響を受けた人が、カウンセリングブームの延長線上にコーチングを位置づけたのでしょう。コーチングはカウンセリングと正反対のかかわり方であり、その違いを筆者は「がんばるコーチング」と「がんばらないカウンセリング」と表現しています。心の癒しが必要な人にコーチングでかかわると、本人を追い詰めることになり、極めて危険です。また、そもそも、スタッフをブームで育てることはできません。

コーチングを極めるロールプレイ

 本連載の第15回でも述べた通り、「何かと質問をすることで考えてもらい、少しでもよい答えにたどり着いてもらう」のが、コーチングの本質です。そこで前回まで、代表的な質問の流れを三つ紹介してきたのですが、ウィットモアは「前の質問に対する答えによって次の質問が決まってくる4)と述べています。つまり、実際には三つの流れ通りにはいかず、質問を省略したり付け加えたり、流れを自在に変えたりしなければ、よい答えにたどり着かないということです。したがって、三つの流れをマニュアルとしてではなく、あくまでもガイドラインとして利用しながら、場数を踏んでスキルアップすることが求められます。場数を踏むということは、単に経験年数を積むことではありません。日ごろからスタッフとの会話でコーチングを試みるように心がけること。そして、計画的な研修の場で2人一組となり、コーチングのロールプレイを繰り返すこと。そうすることで短期間でも場数を踏むことができ、コーチングを極めることにつながります。

2人一組のロールプレイでのセリフの流れ

(1)こんにちは。いくつかお尋ねします。
(2)寒くないですか?
(3)昨夜はよく眠れましたか?
(4)ところで、あなたが困っていること、あるいは目標は何ですか?
困っていること 迷っていること 目 標
(5)どうしてそうなったと思いますか? (5)一方にした場合、どうなりますか?
(6)他方にした場合、どうなりますか?
(5)これまでどのように努力してきましたか?
(6)どれぐらい目標に近づきましたか?
(7)何が障害になっていますか?
(X)今後、どうすればいいと思いますか?
(Y)分かりました。じゃあ、そうしましょう。
(Z)また次回、経過をお聞かせください。

※実際には、いくつかの質問を省略したり、さらに多くの質問をつけ加えたり、質問の流れを自在に変えたりしなければうまく行かない。詳しくは文献5)と6)を参照。

文献:
1)竹林 滋 等編『新英和中辞典 第7版』研究社、2007
2)ウィットモア J.(清川幸美訳)『はじめのコーチング』ソフトバンクパブリッシング、2003、p8
3)同書、p174
4)同書、p187
5)諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング』中央法規出版、2007、p63、p114
6)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p105、p107