メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第16回 迷っているスタッフへのコーチング

決心や選択の問題

 研修を受けようか否かで迷っているスタッフに、「せっかくだから受けたら」とアドバイスすると「でも……」という反応が返ってきて、「じゃあ、やめておいたら」とアドバイスしても、やはり「でも……」という反応が返ってきて、なかなか決まらないことがよくあります。このような場合にも、指示や助言で答えを与えるのではなく、スタッフ自身に答えを考えてもらうコーチングが効果的でしょう。
「利用者のご家族に連絡を取ろうか否かで迷っている」などという決心の問題や、「対面で面談しようかオンラインにしようか迷っている」などという選択の問題に、スタッフが直面することもあります。決心や選択の問題を抱えるスタッフには、次のような質問の流れにより、スタッフ自身の自己決定を支援することができます。

各選択肢を考えてもらう

 まずは「一方にしたら、どうなりますか」と質問をすることにより、一方を選んだ場合のことを十分に考えてもらいます1) 2)。先の例では「ご家族に連絡を取った場合、どうなりますか」とか「対面で面談したら、どうなりますか」となります。続いて「他方にしたら、どうなりますか」と質問をすることにより、他方を選んだ場合のことも十分に考えてもらいます。先の例では「ご家族に連絡しなかった場合、どうなりますか」とか「オンラインで面談したら、どうなりますか」となります。このように、どちらを選んだ場合のことも十分にシミュレーションしてもらい、「想定内」のことを増やしていくのです。よりよい自己決定をしてもらうためには、十分な情報提供も欠かせません。どちらか一方への誘導にならないよう気をつけながら、自己決定するために必要となる情報を可能な限り提供するのがよいでしょう。

解決策を考えてもらう

 どちらも十分にシミュレーションすれば、自己決定しやすくなります。そこで、「結局、どうしますか」と質問して、相手から答えを引き出すことになります。ただし、スタッフから「分かりません」とか「教えてください」という反応が返ってくることもあります。その際には、「このスタッフにコーチングは早すぎた」「半自立ではなく、まだティーチングが必要な半依存だった」と、見方を変えても構いません。「じゃあ、私の考えを一つ、話してもいいですか」と確認したうえで、「……してみたらどうですか」と助言に切り替えていくのも、現実的な方法なのです。助言にスタッフが心から納得すれば、何の問題ありません。もしも助言に対して「それは無理だと思います」と反論してきたら、「じゃあ、どうすればいいと思いますか」と質問して、コーチングに戻して行けばよいです。このようにコーチングと助言は併用したほうが、うまく行くこともめずらしくありません

自己決定を支持する

 答えを引き出すことができたなら、「わかりました。じゃあそうしましょう」と伝えることにより、スタッフ自身の自己決定を支持します。その際に、「また次回、経過をお聞かせください」とか「来週、どうなったか教えてください」と一言添えると、自己決定した行動を動機づけることになります。また、廊下等ですれ違った際に、「あの問題、どうなりましたか」と声をかけるのもよいでしょう。いつも気にかけていることがスタッフに伝われば、自己決定した行動の確かな継続にもつながります。半自立のスタッフに自立した一人前の専門家へと成長してもらうためには、支持するだけで終わらないことが大切です。スタッフが自分自身で考えた援助行動を確実に実行し、問題解決の経験を積み重ねることが、ベテランへと成長するうえで欠かせないのです。

プロセスレコード2

自分の言葉 相手の言葉 備 考
①困っていることは何ですか。 問題を明確にする
②送迎のとき、お困りの様子だったので、ご家族に連絡しようか、やめておこうか迷っています。
連絡した場合、どうなりますか? 一方について考える
④もしも私の思い過ごしならば、余計なお世話になるかもしれません。
⑤連絡しなかった場合、どうなりますか? 他方について考える
⑥何か問題が起きているとしたら、予兆を見逃したことになります。
⑦結局、どうするのがよいと思いますか。
⑧たとえ余計なお世話だと思われても、連絡したほうがいいですね。何も問題がなければ、それでいいわけですし。 解決策を考える
⑨わかりました。じゃあ、そうしましょう。また次回、経過を教えてください。 自己決定を支持する
文献:
1)諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング』中央法規出版、2007、p63、p114
2)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p105、p107