メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第13回 指示から助言に切替える

指示だけでは単純労働のまま

 指導者や管理職のなかには、いつでも誰にでも指示しか出さない人がいます。そうすると、スタッフは考える習慣が身につかず、「指示待ちスタッフ」になってしまうのです。マニュアルに書いてある標準的なサービスを超えて、一人ひとりの利用者に合った質の高いサービスを提供してもらうためには、スタッフに考えてもらわなければなりません。そのために、指導者の指示に従って個別サービスも少しは経験したところで、指示を出すのをやめて助言に切り替えることが大切です。「……してはどうですか?」と助言する時、それに従うか否かはスタッフに任せられ、そこでスタッフは考えることになります。助言は指示よりもスタッフの主体性を尊重するかかわりですが、「……してはどうですか」という言い方で答えを教えるために、助言も指示とともにティーチングに分類されます。指示は積極的なティーチングであり、それに対して助言は消極的なティーチングだと言えます。

困ってもいないのに助言しない

 困ってもいないのに誰かから助言されて、それこそ困ってしまった経験が、読者の皆さんにもあることでしょう。相手が困っている時に助言するのが、助言をする際の大原則です。助言で接するのがふさわしいのは、個別サービスについて「やったことはある」「まだ自信がない」「少しは対応できる」という、半依存のスタッフです。そこで、指導者は最初から助言するのではなく、スタッフをまずは見守り、やってもらうのがよいでしょう。そして、スタッフの仕事が滞ったときや、困った表情をしているときに、タイミングをとらえて「……してみたらどうですか?」と助言するのです。ひとこと助言したら、また見守ります。次から次へと矢継ぎ早に助言すれば、指示に限りなく近づいてしまうからです。

助言を無視されても怒らない

 助言が指示に近づかないためには、言い方にも気をつける必要があります。「…すればいい」という決めつけた言い方ではなく、「……してはいかがですか?」と提案するような表現を使います。また、助言がムダにならないためには、指示を出すときと同様に、理由を説明して納得してもらうことが大切です。「……なので」と理由も添えると、助言の受け入れも促されます。それでも自分の助言を相手が受け入れなかったり、無視したりしたときには、不愉快になって怒らないようにしましょう。指導者が怒りだすと、助言は実質的に命令となり、怒られるからやるという依存した行動を招きます。自立したスタッフの育成につなげるためには、スタッフが助言に従わなかった理由を考えて、次に役立てることが大切です。

助言トレーニング(カード版)

 助言の改善を目指して、訓練をする方法があります。スペード、ハート、クラブ、ダイヤの4種類のカードを合計52枚用意し、誰かと2人一組でテーブルに着席します。自分は52枚のカードをかき混ぜて、すべてを束ねた状態で相手の目の前に置きます。相手には目隠しをせずに、カードをよく見ながら、4つの種類ごとにエース(1)からキング(13)の順に、すべてのカードを並べてもらうのです。自分は相手の作業をみながら、必要に応じて「…してみてはどうですか?」と助言します。自分の助言回数と相手の受入れ回数を記録しながら進めると効果的です。自分の助言回数がゼロか、あるいは助言をすべて相手が受入れて作業を完了することを目指します。振り返りながら繰り返しチャレンジすると、適切な助言を自ずと理解し、身につけることができます。1)2)

表 助言トレーニングによる気づきの例

●最初から助言せず、まずは見守る。
●相手が困っている時に助言する(困ってもいないのに助言しない)。
●決めつけた言い方をせず、提案するような表現を使う。
●理由を伝えて納得してもらう。
●助言を無視されても怒らない。
etc.
文献:
1)諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング』中央法規出版、2007、p105
2)諏訪茂樹『看護にいかすリーダーシップ 第3版 ティーチングとコーチング、チームワークの体験学習』医学書院、2021、p81