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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第14回 答えを引き出すコーチング

拡散するコーチング

 ほめる、聞く、認める、タイプ分けなどのハウツーを、コーチングだと思い込んでいる人がいます。効果的なコミュニケーションや指導法のすべてがコーチングだと、理解している人までいます。そうすると、これもあれもコーチングとなり、結局は何も変わらなくなるのです。ちょうど、狭義のカウンセリングが臨床心理学に基づくものであり、心理的原因による不適応への相談援助であるのに、キャリアカウンセリングとかビジネスカウンセリングなどと、海外ではコンサルテーションと呼ばれているものにまでカウンセリングという名称をつけるのと同じです。狭義の意味を超えて拡散する背景には、ブームになったカウンセリングやコーチングの名称を使うことにより、さらに広げようとするビジネス界の商業主義的な意図もあるでしょう。ここで商業主義について議論するつもりはありませんが、著者は曲がりなりにも社会科学者ですので、ビジネス界の動きには距離を置き、あくまでも学術的視点からコーチングを紹介します。

質問をして答えを引き出す

 答えを教えるティーチングとは対照的なかかわり方として、コーチングを提唱したのはジョン・ウィットモアです。コーチングとは何かを理解するために彼の著書1)を読むと、インナーゲームからヒントを得たと冒頭に書いてあります2) 。そこで、インナーゲームの書籍3)を取り寄せて読んでみると、それはテニスプレイヤーの養成法でした。同書によると自分自身に指示・命令をするセルフ1と本能的にプレイしようとするセルフ2とが選手の心の中で対戦しており、セルフ1はセルフ2を押さえつけることから、それは「まるで口やかましい上司に似ている」4)とのことです。この例えに注目したジョン・ウィットモアは、選手の心の中のゲームを二者間の対人コミュニケーションに置き換えました。そして、指導者が指示・命令をする代わりに、自由回答式の質問(開かれた質問)をして答えを考えてもらい、相手の能力を引き出す方法を考え、コーチングとして提唱したのです。

強い動機づけがもたらされる

 一人ひとりの利用者に合った個別サービスを、「何度かやったことがある」「そこそこ自信がある」「ほぼ対応できる」という半自立のスタッフには、自分自身で考える能力が身につけていると言えます。そこで、いつまでも指示や助言で答えを与えるのではなく、「どうすればいいと思いますか」と自由回答式質問(開かれた質問)をすることで答えを考えてもらい、個別サービスの能力を引き出すのがよいでしょう。さまざまに質問をすることで思考を助け、妥当な答えにたどり着いたところで、「じゃあ。そうしましょう」と支持します。スタッフが自分自身で考え、自己決定した行為には、やりがいと責任を伴います。そのために、強い動機づけがもたらされることから、より確かな結果が期待されるのです。それに対して、指導者から教えられた行動に責任を感じる人はいません。教えられた通りにやって上手く行かなくても、「私は悪くない。指導者が間違ったのだ」と考えてしまうからです。

ベテランはセルフコーチングをする

 コーチングによる後方支援を繰り返すと、やがてスタッフは個別サービスを「いつもやっている」「自信がある」「対応できる」という、ベテランの自立した専門家へと育っていきます。自立した専門家は先輩の後方支援がなくても、利用者やご家族と話し合いながら、個別サービスを自分で考えて提供します。そして、もしもうまく行かなければ、改善策を自分で考えることになります。自立した専門家はいわばセルフコーチングをしながら個別サービスを提供できるのであり、また、後輩の個別サービスをコーチングで後方支援できるようにもなるのです。最善のサービスについて自問自答するのがセルフコーチングであり、相手の自問自答を質問することで助けるのがコーチングだと説明することもできます。「何を質問するかは相手から返ってきた答えによる」とジョン・ウィットモアは述べていますが、おおよその流れもあります。次回から3回に分けて、コーチングの三つの代表的な流れを紹介していきます。

文献:
1)ウィットモア J.(清川幸美訳)『はじめのコーチング』ソフトバンクパブリッシング、2003
2)同書、p19
3)ガルウェイ W.T.(後藤新弥訳)『新インナーゲーム』日刊スポーツ出版社、2000
4)同書、p45