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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第7回 チームは握り寿司

そもそもチームとは

 ドラッカーはチームについても説明していますが、それは彼の目標管理の考えと、見事に符合しています。彼によると「チームとは、異なる技能、知識、背景を持つ人、しかも本来異なる分野に属しながら、特定の仕事を果たすためにともに働く人の集まり」1)なのです。つまり、同じ仕事をするための、それぞれに強みを持った多様な人の集まりがチームなのです。このようなチームのあり方を、筆者は握り寿司の詰め合わせに例えて説明しています。つまり、マグロや海老やイカなど、さまざまな寿司ネタが集まり、握り寿司の詰め合わせというチームを構成しているのです。海老やイカは、マグロの真似をして泳いでも、うまく泳げません。マグロの評価基準を使って、海老やイカを評価しようとすれば、海老やイカは怒るでしょう。マグロはマグロ、海老は海老、イカはイカなのです。酢飯という共通の理念のもと、それぞれが強みと責任を発揮し、互いの弱みを補い合っているのです。

チームでは誰もがリーダー

 それぞれが強みと責任を発揮するわけですから、特定のメンバーだけが常にリーダーになることはありません。もちろん、チームの窓口となる代表者やメンバー間の調節役は、必要になることもあります。しかし、ドラッカーが述べているように、「実際にチームを指揮する者は、仕事の段階や要求によって変わっていく」1)のです。例えば、生活に困窮している人を、本人の同意に基づいて保護する段階では、ソーシャルワーカーがリーダーとなるでしょう。その人に重い病気が見つかり、入院手術が必要な段階では、医師がリーダーとなります。手術から退院するまでの看護の段階では、看護師がリーダーになります。そして、退院後、地域で自立した生活を営むうえで介護が必要な段階では、介護職がリーダーとなるのです。

メンバー間に上下関係はない

 そうすると、「チームには上司も部下もいない。シニアとジュニアがいるだけである」1)というドラッカーの言葉も、理解することができます。人間関係を上下関係でしか考えることができず、常に上に立って仕切ろうとする人もいますが、そういう人は常に指示待ちで責任を回避しようとする人と同様に、チームワークの阻害要因になりがちです。特定の分野のメンバーだけが常に指示・命令を出し、他の分野のメンバーは指示・命令に従うだけならば、他の分野のメンバーは自身の強みと責任を発揮できなくなるからです。それぞれの分野の専門性に基づき、対等な立場で連携することにより、真の意味でのチームワークが可能となります。チームではメンバー間に上下関係がなく、年上と年下がいるだけなのです。

チームワークを学ぶ協力ゲーム(カード版)

 チームワークの実際を、その一部ではありますが、シミュレーション訓練する方法があります。トランプのカードを用意し、4人一組で大きめのテーブルに着席します。誰か1人がカードをかき混ぜたうえで、自分も含めた全員に13枚ずつ、カードを任意で配ります。配り終えたら各自が手元にカードを並べて、スペード、ハート、クラブ、ダイヤのいずれか1種類のカードを、各自が13枚集めていきます。ルールはたった1つです。他の人のカードを勝手に持っていくことはできず、自分のカードを誰かにあげることしかできません。あげるときにはテーブルの中央に出すのではなく、誰にあげたが分かるように、その人の手元に置いて下さい。ちょうど、各自の手元にあるカードが強みとなり、不足しているカードが弱みとなります。互いの強みで互いの弱みを補い合うのです。ストップウォッチを用意して、どうすれば全員が早くできるかを振り返りながら、時間短縮に繰り返しチャレンジすると、自ずとチームワークの秘訣を理解し、身につけることができます2)

表 協力ゲームによる気づきの例

➊ 自分だけ見るのではなく、自分も含めたチーム全体を見る。
❷ 不要なカードをいつまでも抱え込まず、できるだけ早く誰かに渡す。
❸ 自分の要らないカードを必要としている人を、きちんと判断して渡す。
❹ チーム全体で早くゴールするために、自分を後回しにすることもある。
etc.
文献:
1)ドラッカーP.F.(上田惇生訳)『エッセンシャル版マネジメント基本と原則』ダイヤモンド社、2001、p.207.
2)2)諏訪茂樹『看護のためのコミュニケーションと人間関係』中央法規出版、2019、p149