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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害のある人にとっての「新しい生活様式」

 新型コロナウイルスは、障害のある人の日常生活に多大な影響をもたらしています。緊急事態宣言が解除されて一般的な「新しい生活様式」の提案はされているとしても、基礎疾患や障害のある人や高齢者にとっての「新しい生活様式」は何も明らかにされていません。

 たとえば、①身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗い、という「感染防止の3つの基本」について考えてみます。

 まず、身体的距離の確保(これまでソーシャル・ディスタンスと言われてきましたが、WHOはフィジカル・ディスタンスと表現を改めました)は、視覚障害のある人からは距離感がつかめないとの声が上がっています。

 視覚的に距離感が把握できないだけでなく、マスクの着用によって顔の皮膚感覚で把握してきた周囲の状況のつかめなさが、新型コロナウイルス以降の新たな困難として指摘されています(http://nichimou.org/notice/20200514-jim/参照)。

 次に、マスクの着用についてです。視覚障害のある人にとって顔の皮膚感覚が鈍くなることによる歩行困難の他に、聴覚障害のある人は口の動きが見えないことによるコミュニケーション困難の発生や、上肢に不自由のある人はマスクが一度ずれてしまうとにわかには直すことができない問題が指摘されています。

 そして、しっかりとした手洗いの励行については、知的障害のある人が独力では必ずしもやり切れない難しさがあり、上肢に不自由のある人には介助がこれまで以上に必要となります(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-93200.php参照)。

 このように「感染防止の3つの基本」を取り上げるだけでもさまざまな問題があり、行動援護サービスや介護サービスがこれまで以上に手厚く保障されることの必要性が分かります。

 口の動きが見える手話通訳の必要に対応して、手話通訳者が透明のフェイスガードを着用するケースが出てきています。しかし、現行のフェイスガードは光の反射角度によっては見づらいために、聴覚障害のある人たちは製品の改良を切実に求めています(なお、光の反射率を極力抑えるためのコーティングを透明財表面に施すことは、眼鏡のプラスチックレンズのコーティングと同様で技術的には可能ですが、フェイスガードの表面積は広く、相当高額になるでしょう)。

 民間企業で働く障害のある人の時差出勤についても、それぞれの企業で時差出勤を認める対象とならない契約社員が多いために、時差出勤できる障害のある人がほとんどいない現実があります(https://www.mirairo.co.jp/information/post-00001参照)。

 テレワークやオンライン会議についても、聴覚障害や視覚障害のある人たちから、情報がうまく伝わらない困難が高く、最悪の場合には「置いてきぼりにされてしまう」事態さえ生じているとの声が上がっています。

 こうして、障害のある人の健康で文化的な生活を守る観点から「新しい生活様式」を考えようとすると、山のように課題が出てくると思います。福祉・介護サービスを利用しながら「3密」を避けるにはどのような配慮や工夫がいるのかについても、障害特性や支援現場の諸条件によって考慮すべき問題は異なるでしょう。

 また、「新しい衛生用品の供給様式」を社会的に定める必要があるでしょう。マスクや消毒液の高騰と転売を禁止するだけでなく、必要な人に必要なだけ行き渡るようなシステムの確保が絶対に必要です。

 難病団体が要望を出しているように、基礎疾患や免疫力の問題がある人には、マスク、消毒液、アルコール綿等の供給を購入負担がかからない条件で保障しなければなりません(https://nanbyo.jp/appeal/200326yobo.pdf参照)。

 また、福祉・介護人材をめぐる新しい問題も出始めています。新型コロナの問題が浮上する直前までは、人手不足のあおりを受けて福祉・介護領域から他の業種・業態へ人材の流出する事態が続いて来ました。

 ところが、新型コロナによる職場の休業や、馘首や雇い止めの急激な増加等から、他の業種に流出していた人材が元の福祉・介護職場に戻ろうとする動きが出できているのです。このような状況の中で寄せられたある相談ケースがありました。

 他業種から介護の職場に戻って来た人は、福祉・介護以外の世界で得てきた稼働収入の水準を何とか確保しようとしています。子どもの養育や各種ローンの返済があれば、「コロナ禍」による収入減を最小限に押さえようとするのは当然でしょう。

 ところが、同行援護や介護の領域は、新型コロナの感染防止のためにお休みしている支援者も多く、サービスの需要に供給はまったく追いついていません。そこで、他業種から介護の世界に戻ってきた人が、手っ取り早く収入を確保するために、特定の利用者に対して「自分の時間枠を増やしてほしい」と言い出すのです。

 この介護者の申し出を断ると虐待とまではいえない程度の、利用者への冷めた対応に態度を切り替え、自分のサービスの利用量をムリヤリ増やすための圧力を利用者にかける不適切なケースがありました。利用者の弱みにつけ入る悪質なケースであり、このような深刻な人権問題への社会的対応が速やかに求められていると考えます。

 

このようにみてくると、第6次障害者計画・障害福祉計画は新型コロナの問題を機に、「障害のある人にとって必要な新しい生活様式」を考慮した内容でなければならないことが分かります。今年度の新しい計画策定は、障害当事者の参画がこれまで以上に重要であるとともに、法制度改善の手直しまでを射程に収める必要も出てくるでしょう。
木苺の花に来たクマバチ

 NHKのEテレの人気番組「香川照之の昆虫すごいぜ」で、クマバチを特集していました。クマバチは、図体がでかく羽音に迫力があるため怖れがちですが、よほどのことがない限り、基本的に人間に関心を示すことはありません。接写してみると、クマバチという名前にふさわしく全身毛だらけです。

 「昆虫すごいぜ」は、香川さんがクマバチの背中の黄色の毛を触って「気持ちいい」と叫ぶように、イケメン歌舞伎俳優の定型枠をはるかに超えた番組です。昆虫の素晴らしさが香川さんの言動からほとばしります。

 鶏の足を4本描く若者が普通にいる現代だけに(鶏肉しか知らないので、肉だから豚や牛と同じ4本足となるらしい)、自然に生きる昆虫の姿の感動を伝えるこの番組は素晴らしいと思います。

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