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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

障害者虐待における複合的困難

 浜松駅で新幹線を降りて改札に向かう途中、いきなりヤマハのコンサートグランドピアノの最高峰、CFXの展示に出くわしました。もう、びっくりです。希望小売価格1900万円のピアノですよ!

浜松駅展示のヤマハCFX

 しかも、「お手を触れないでください」との注意書きもない。演奏用の椅子まで置いてあるのでちょっと弾いてみると、そこいらのピアノとはまったく次元を異にする音色-透明感、鍵盤タッチに対する感度、深みのある響き。

 今回のテーマは浜松市虐待防止研修の論点である複合的困難(複合差別)についてです。

 この問題を明確に提示したのは、障害者権利条約第6条「障害のある女子」(2006年)と国際労働機関(ILO)『ディーセントワークへの障害者の権利』(2007年)のパラグラフ1.30及び1.30.1です。

 これらの国際文書から複合差別とその克服に関する基本的内容をまとめると次のようになります。

(1)障害のある女性は、女性であること、障害のあること、そして多くの障害のある女性の貧しさが交錯することによって、二重あるいは三重の複合差別を被っている。

(2)障害のある人が「ジェンダーのない人間であるかのように扱われる」ことによって、障害のある女性の被っている複合差別は「しばしば無視され、あるいは見過ごされる」。

(3)締約国は、障害のある女子が障害者権利条約の定める人権と基本的自由を行使し、享有できることの保障を目的とした能力開発や自律的な力の育成を確保するための適当な措置をとる。

 そこで、複合差別について、平成28年度障害者虐待対応状況調査結果から分け入ると、次のような事実を指摘することができます。

 養護者による虐待は、性別でみると、被虐待者は女性(表1)に、虐待者は男性(表2)にそれぞれ偏って多いことが明白です。

表1 障害のある被虐待者の性別
男 性 女 性 合 計
562人(36.2%) 992人(63.8%) 1,554人(100.0%)


表2 虐待者の性別
男 性 女 性 不 明 合 計
1,074人(62.0%) 653人(37.7%) 5人( 0.3%) 1,732人(100.0%)


 また、障害のある被虐待者の虐待類型別の状況をみると、女性は3つ以上の虐待類型を被っている場合(たとえば、身体的虐待、性的虐待および経済的虐待を同時に被っている等)が男性と比較して著しく多いことも分かっています(拙著『障害者虐待』、中央法規、2012年)。

 前回のブログで提示した高齢者虐待においても、被虐待者の性別が女性に多く偏っており、少なくともその7割は要介護状態の高齢者(=障害のある人)です(平成28年高齢者虐待対応状況調査結果)。

 このようにみてくると、障害のある女性は男性よりも差別を被りやすく、「二重または三重の」虐待というかたちで複合的な困難を被っていることが分かります。

 ILO『ディーセントワークへの障害者の権利』1.30.1では、就労に関する障害のある女性への差別が著しいことと同時に、「法的枠組みはジェンダーに中立的であるために、障害のある女性に対する差別は記録されることなく容易に生じ得る」問題を指摘しています。

 わが国では、この間に明らかにされた医学部入試の女性差別、その背後にある医療現場における女性差別の深刻な問題があることが分かっています。これは医療だけではなく、一般の民間企業や福祉の職場においても共通するわが国の構造的な女性差別の問題です。

 ところが、毎年厚労省が発表する障害者虐待対応状況調査結果をみると、養護者による虐待と施設従事者等による虐待については、被虐待者と虐待者をともに性別で明らかにするのに対し、使用者による虐待については性別が一切明らかにされていません。

 つまり、「法的枠組みはジェンダーに中立的である」障害者虐待防止法の中でも、虐待発生の種類によって、「女性に対する差別は記録されることなく容易に生じ得る」状態が、使用者による虐待については続いているのです。

 労働局の実際の虐待対応においては貴重な教訓が蓄積されているのですから、より一層の虐待防止の取り組みを進めるために、ILOの指摘に従って性別を統計の上で明示していただきたいと考えます。

 最後に、付言しておきたいことが二つあります。

 一つは、障害者の施設従事者等による虐待では、被虐待者が明らかに男性に偏って多い事実が認められる点についてです。これは、支援現場の家父長的な職場構造と障害のある男性の障害特性(発達障害等が女性に比べて著しく多い)等の、複数の要因によるものと考えています。

 ただ、この問題はブログ原稿の範囲をはるかに超える検討課題があるため、この夏頃に中央法規から出版される、これからの障害者支援施設等に関する提言をまとめた単行本に詳しく述べる予定です。ぜひ、お読みください。

 もう一つは、障害のある人の中にもLGBTはいますから(私は実際に何人もの方を知っています)、性をめぐる複合差別の問題の現実は既存の統計資料の示すものよりもはるかに複雑で、その克服に向けた課題は広範多岐にわたることが予想されます。この点も今後の重要な研究課題だと考えています。


 さて、浜松では、個人的念願であった浜松市楽器博物館を訪れました。

浜松市楽器博物館

 世界でも類例のない楽器の博物館です。全世界の多種多様な楽器の展示をしているだけでなく、多くの楽器について、実際の楽器演奏の音色をヘッドフォンで視聴できるようになっています。音楽と楽器に興味のある方には、必見の博物館です。

鍵盤楽器のブース-実際はこの2倍以上の鍵盤楽器が
展示されている

 日本とヨーロッパだけでなく、アジア、オセアニア、北米、南米、アフリカなどの楽器も豊富に展示されていますから、すべての音色をヘッドフォンで確かめながら観ていくと、博物館の展示をじっくりと回るためには4~5時間はかかるでしょうか。

 私の訪問日には、チェンバロの演奏と内部構造の説明会がありました。音の強弱がつきにくいチョンバロが、音の強弱にメリハリのある演奏を可能にした「ピアノフォルテ」(小さな音であるピアノと大きな音であるフォルテから、略して「ピアノ」という楽器名称になった)に発展していく様を、実際の楽器を前にリアルに理解することができます。

アジア・オセアニアの楽器展示ブース

 ものづくりの原点は文化であることを実感させてくれます。

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