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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

内なる優生思想


 10月25日に、旧優生保護法の下で不妊手術を強制された宮城県の男性2人が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は計3300万円の賠償を命じた1審・仙台地裁判決を支持し、国の控訴を棄却しました。

 これまで仮名で活動してきた原告の千葉広和さんは、今回の勝訴判決後の記者会見で実名を明かしました。千葉さんは、国が上告せずに早期解決の実現を願っているとともに、「もっと多くの仲間に声を上げてほしい」と訴えました。

 全国の12地裁・支部でこれまでに起こされた強制不妊訴訟は、原告38人による21件の訴訟です。高裁判決は今回で7件となり、この内、国に損害賠償を命じる原告側勝訴は5件です(優生保護法被害弁護団)。

 38人の原告の内5人の方は、裁判係属中にお亡くなりになりました。原告は70~80代の高齢で、裁判所は迅速に審理を進めるべきであるとともに、原告側勝訴の判決に対しては、国は上告を断念すべきです。

 仙台高裁の判決は、旧優生保護法が母体保護法に改正される1996年まで、被害者の98%が強制不妊手術から20年経過していたことを踏まえて、「被害者が損害賠償請求などの権利行使をすることは不可能だった」と指摘しています。

 そして、優生保護法の違憲性を認めた上で、「人権侵害を進めてきた国が除斥を理由に損害賠償請求権の消滅を主張することは正義・公平の観点から権利の乱用にあたる」と指摘しました。

 弁護団は、仙台高裁の判決を被害の全体的解決に資する「画期的な判断」だと評価しています。

 2019年4月に強制不妊救済法が成立しています。議員立法によるこの救済法は、被害者への「おわび」と一時金320万円の支給を盛り込み、「全会一致」で可決されました。しかし、政府と国会は、旧優生保護法の違憲性とこれまで救済策を講じてこなかったことの違法性には言及していません。

 旧優生保護法(1948~96年)は、健康健兵政策を柱に据えた戦時厚生事業期に成立した国民優生法(1940)の焼き直しです(2023年8月28日ブログ参照)。

 戦前のナチスドイツが600万人ものユダヤ人と障害のある人を殺害したホロコーストと同根の優生思想にもとづく施策を、基本的人権の尊重を謳う日本国憲法の下で実行してきたのです。

 いうなら「二枚舌国家の欺瞞」を白日の下にさらした強制不妊手術の被害に対して、可及的速やかな全面的問題解決を図ることが政府と国会の果たすべき最低限度の責任です。

 それと同時に、強制避妊手術の実施関係者にも責任の一端があるのではないでしょうか。都道府県行政の中で強制不妊手術の実務を進めた担当者、都道府県の指揮の下で手術を受ける医療機関まで連れて行った福祉・保健の関係者、手術を行った医療関係者、そして一部の家族等です。

 強制不妊手術の実施関係者は、決して一枚岩ではありません。地域によっては、行政機関が積極的に強制不妊手術を推進するとともに、それに協力する医療関係者がいた一方で、「悩んだ末に国の定めた法律に従うしかない」と苦しい心境に追い込まれた人もいます。

 ここで改めて耳を傾けるべきは、今回の仙台高裁判決から実名をカミング・アウトした千葉広和さんの訴えです。千葉さんが「もっと多くの仲間に声を上げてほしい」という背景には、被害者を取り巻く「実施関係者の壁」が存在しています。

 家族や関係者が苦衷の心境の中で、「国の定めた法律に致し方なく従って」強制不妊手術に運んだとしても、何も本人に知らせないまま実行したケース、関係のない疾患に係わる手術と偽って受けさせたケースも横行していたと言われています。

 そして、手術をした医療機関の多くがすでに廃業しており、都道府県にも資料が十分保管されている訳ではないとなると、被害者を救済する道を拓く鍵は、当時の関係者に絞られてしまうのです。

 仙台高裁判決が、「旧優生保護法が改正される1996年までに、被害者の98%が手術から
20年以上が経過していた」とすれば、現時点では手術から50年近くの歳月が流れたことになります。

 手術の実施関係者の高齢化はかなり進み、「今さら遠く忌わしい過去を呼び覚ましたくない」「ここまでくれば寝た子を起こすことよりも、本人に知らせないことが本人のためだ」という方が多いのかも知れません。

 しかし、「国の法律に従う他なかった」という弁解は、強制不妊手術関係者の行為を全面的に正当化できるものとは考えないし、私はそう思いたくありません。

 このような弁解が許されるとすれば、ナチスドイツのホロコーストの実行責任者であったアイヒマンが、エルサレムの裁判で「私は上の指示に従っただけだ」という自己正当化を主張したことに、許諾を与える道を拓きかねないからです。

 もちろん、手術の実施関係者の多くにアイヒマンと同等の責任があると言いたいのではありません。複雑な諸条件が交錯すれば、「普通の人」が優生思想の実行者、手術の加担者または傍観者になり得る事実を正視した歴史的責任の積み重ねを介してこそ、優生思想の真の克服が実現されるのではないでしょうか。

 強制不妊手術の実務関係者がカミング・アウトしない限り、被害者が「被害を受けたことを自覚する」ことすらできない状況があるとすれば、当時の実務関係者には旧優生保護法の問題解決に資する責任の一端を引き受ける必要があると考えます。

 これまで虐待の発生する現場に足を運んで思い知ったことは、虐待者の多くは「普通の人」だという事実です。施設従事者等による障害者虐待の確認される施設では、管理者(施設長)や理事長が虐待発生につながる諸要因を放置し、不適切な支援の発生を多くの職員が見過ごすか傍観した挙句の果てに、「普通の人」による虐待が起きています。

 これら虐待の発生に係わるすべての関係者が虐待防止に資する責任を負わない限り、施設従事者等による虐待は克服できません。虐待発生は、虐待者だけの問題ではないのです。

 私たちのほとんどは、お釈迦さまや聖徳太子のような聖人ではなく、凡百の衆生です。悪い諸条件が重なれば、誰しも虐待者となり得る可能性を内に秘めています。

 小さな間違いを気づかないままに犯しながら「支援」「養護」「養育」をする日常があり、それがさまざまな諸条件の重なりによって不適切な支援が拡大し、あっと気づいたときに「虐待者」となっている。割り切れない複雑な日常生活世界の中に佇みながら、誰もが「内なる虐待者性」を抱えているのです。

 「内なる優生思想」や「内なる差別性」も、全く同様です。

 津久井やまゆり園事件の犯人について、優生思想の問題が大きく取り上げられてきました。優生思想をめぐる歴史的な大事件としては、アウシュビッツ強制収容所に象徴されるナチスドイツのホロコーストが大きく取り上げられてきました。

 しかし、このような取り上げ方や切り取り方は、優生思想はやまゆり園事件の犯人=他者の問題であり、ナチスドイツ=他国の問題だという、他人事への傾斜があります。

 戦時厚生事業期の国民優生法から戦後の旧優生保護法への連続性についての無自覚が、障害福祉関係者の優生思想への無頓着と他人事への傾斜を招き続け、強制不妊手術の歴史的な問題解決を長年放置してきた側面のあることは間違いありません。

 神奈川県立中井やまゆり園の施錠監禁で報じられた実態は、強制収容所といっても過言ではないし、それと同様の事態にある障害者支援施設は今日なお存在しています。

 施錠監禁による身体拘束の虐待発生が確認され、行政機関による改善指導を受けながら、暫く経って一段落したところで、以前よりも巧妙に施錠監禁を実施しているという噂が跡を絶ちません。このような「ゲットー化」はまさに優生思想にほかならない。

 わが国の障害福祉に内在する優生思想と私たちの「内なる優生思想」への気づきが必要不可欠であると考えます。

10月末の苦瓜

 わが家のゴーヤは、酷暑の8月が不作、9月の大豊作に続き、10月も豊作が続いています。夏の日差しを遮るグリーンカーテンの効果が注目され、ゴーヤのグリーンカーテンが一気に広まりました。ただ、ゴーヤは放っておいても実がたくさん生るので、食べきれずに困っているご家庭も多いと聞きます。

 ゴーヤチャンプル、ゴーヤのサラダ、ゴーヤの煮物など、多彩なレシピをインターネットで拾うことはできますが、一度にゴーヤを数本使い切るメニューはあまりないでしょう。そこで、一度にゴーヤ5本(少し小ぶりなら8本でも大丈夫)を使い切るレシピをご紹介します。ゴーヤの苦みがさわやかに味わえるクリームスープです。小さなお子さんには不向きかも知れませんが、大人には結構「やみつきスープ」になります。

◇ゴーヤのクリームスープ
1. 里芋(大サイズなら1~2個、中サイズなら3個程度)の皮をむいて牛乳500ccで煮る
2. 火の通った里芋を牛乳ごとハンドブレンダーまたはミキサーにかけて、里芋を擦りつぶした状態にする。これはスープにとろみをつけるためです。
3. ゴーヤ5本のワタと種を取り除き、スロージューサーに入る大きさに切り分ける
4. スロージューサーでゴーヤジュースを絞り出し、2.の里芋を擦りつぶした牛乳に加える
5. 牛乳1000ccと、お好み次第の量で生クリームまたは無糖練乳を4.に加えて温め、コンソメスープの素と天然塩でお好みの味に調えてでき上り。

皮をむいた冷凍の枝豆をスープに加えると、朝食は目玉焼きにこれだけでOK。お試しあれ。