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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

家畜化と虐待

そうか私は「家畜」だったのか!

 「家畜」と聞くと私は、牛や豚や鶏などを思い浮かべますが、広義には人間が野生動物を飼育、繁殖させたものを指し、愛玩動物や実験動物なども含まれるといいます。要するに、人間が自分たちの都合に合わせてコントロールしている動物たちのことです。

 しかし、私たちだってコントロールされている動物ですから、家畜的だと言えるかもしれません。ただし、人間は自分自身を家畜化しているため「自己家畜化」と呼ぶのだそうです。言われてみればなるほどです。

 ところで、人間による野生動物の家畜化は1万5千年ほど前に始まります。そして、家畜化により人間は、狩猟生活よりずっと食料を安定して確保できるようになり、世界の人口は急増していきます。生存できる確率が格段に上がったわけです。

 一方、家畜化された動物は、野生とは異なる変化をしだします。体の色が白っぽくなる、脳が大きくなり知能が発達する、コミュニケーション能力が発達する、攻撃性が弱まるなどです。興味深いのは、これらが「進化」の結果だという点です。

 家畜なら、目立ち過ぎて襲われやすく、捕食もしにくい白い体でもかまいません。また、食物の心配はなく守られているため、身の危険を感じるようなストレスはなくなり、脳が発達します。そして、飼い主に愛されるためにコミュニケーション能力も発達します。

スーパースターはぼられる

 さらには、厳しい生存競争に晒されないので攻撃性は弱まりますが、天寿を全うできる確率は高まります。ですから、適者生存という文脈なら家畜は、野生より弱いイメージとは裏腹に勝ち組動物なのであり、私たち人間は家畜界のスーパースターなのだと言えます。

 もっとも、シンガーソングライターで俳優の福山雅治氏の言葉として伝わる「お店に行くと、ただのスターなら、おまけをしてもらえるが、スーパースターになると、ぼられる」という趣旨のジョークのように、人間には大きな落し穴が待ち構えています。

 それは、気がつけば最強の外敵「人間」が隣にいることが少なくないということです。つまり、家畜の進化は「外敵から守られた閉じた環境」で生きるという条件下での話であって、人間はそこまで単純な環境下では生きていません。

 ですから、外敵に遭遇すれば、太古の昔に比べて弱まったとはいえ、やはり野生の本能むき出しで攻撃性を示すことになります。どうりで人間同士の戦争や紛争はなくならないわけですが、虐待者も被虐待者を外敵だと捉えているのでしょうか。

 私は、虐待事例には、家族だから、仕事だから、お金のためだからと、無理をおして虐待者と被虐待者が一緒に生活する事例が多いことから、「福祉の追求が担保されない閉じた環境」ゆえに、内部なのに外敵を見出し易くなってしまうように思います。

「これぞ自己家畜化の極み!」
「社畜?なんだかなぁ…」