メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

8050問題

 先日、ソーシャルワークの取組むべき問題として、ひきこもりに注目していると話す社会福祉を学ぶ大学生がおられました。彼女は、ひきこもりの高齢化が特に気がかりだとしていました。確かに、最近もテレビで報道されていますし気になるところです。

 従来、ひきこもりは若者に特有の問題だと捉えられてきました。ところが、特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会様は、40歳以上が16万人いると推計していますし山形県様の実態調査(2013年)によると、15歳以上の県民のひきこもりのうち、40代以上がほぼ半数にものぼっています。

 いつまでも若者に特有の問題だと捉えていると、中高年のひきこもりへの支援が手薄になってしまいます。また、引きこもりの子が頼る親も高齢化していきますから、身体的にも心理的にも経済的にも行き詰まりかねません。実際、要介護状態の80代の親と50代のひきこもりの親子の問題を「8050問題」と呼び、メディアによって警鐘が鳴らされてもいます。

 虐待の問題でも、ひきこもっていた息子や娘による事例を検討することも珍しくはありません。このブログ「養護者による高齢者虐待のタイポロジー(その1)」でも詳しく述べましたが、男性の割合がずっと多いことや、いったん社会人として自立した者が陥る場合があること、自己肯定感が低い点など、ひきこもりの中高年像と重なる部分は少なくないと思います。もっとも、虐待者にひきこもりやニートが多いようにも思えませんから、これらの相違点をどう説明するかが今後の課題になると言えそうです。

 ところで、厚生労働省ではこれまでひきこもりに関する事業を、精神保健福祉分野や児童福祉分野、ニート対策のなかで行ってきましたし、精神保健福祉センターや保健所、児童相談所は、相談などに応じてきました。

 加えて、平成21年度からは、ひきこもりに特化した第一次相談窓口である「ひきこもり地域支援センター」を都道府県と指定都市に設置する体制整備が進められています。ですから、高齢者虐待の防止に向けた取組みにおいても、これらの機関との連携のあり方について、今のうちから準備を進めておいた方が良さそうです。

 もっとも、個別対応については、統合失調症などのため薬物療法が必要な場合、発達障害など生活・就労支援が必要な場合、パーソナリティ障害など心理療法的支援が必要な場合などのパターンがあるようですが、虐待者への対応と大きく異なるものではなさそうです。

 いずれにせよ、中高年のひきこもりの実態を明らかにしないと始まりません。内閣府は平成30年度に40歳~59歳を対象にした初の実態調査を行うといいますから、是非、結果に注目したいと思います。

「もしや、ひきこもりの中高年!?」
「仙人じゃよ!空中浮遊する」