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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

儚い夢


 報道で、能登半島地震の被災地へのボランティア派遣が始まったと知りました。続く地震や二次災害の恐れなどから、必要なのに受け入れさえままなりままなりませんでしたから、復旧・復興前進の兆しのように思え、ほんの少しですが気持ちが和らぎます。

人の感謝は山よりも高く海よりも深い

 ボランティアと言えば、私には忘れられないエピソードがあります。それはもう40年も前のことです。とある特別養護老人ホームで、積極的にボランティア活動をしておられた方々は少なからず、かつての利用者のご家族でした。

 ほとんどは夫の親の介護を担った「お嫁さん」でしたが、ボランティア活動の志望動機はみな同じです。「以前助けて頂き本当に感謝しています。ですから今度は私がご恩を返す番です」という「恩返し」だったのです。

 彼らはみな本当に熱心で、いわゆる3K仕事にも率先して取り組んでおられました。「ボランティアは上流階級の者のたしなみ」とお考えの人々が決まって、3K仕事を嫌がり楽しいアクティビティにのみ熱心なのとは、明らかに一線を画していました。

 私はつくづく、「感謝」が持つ人を動かす力は絶大だ、と思い知りました。そしてその力は、跡取りがいないために養子縁組することが多かった当時、親子の間に「紙一枚分のよそよそしさ」が出来やすいことにも垣間見えました。

 つまり、養子縁組が「子のため」ではなく「イエ存続のため」であるのに対し、両親を失ったり虐待されていたりした「子のため」の養子縁組では、子は養父母に窮地を救われたと深く感謝するため、親子間によそよそしさは生じなかったからです。

人の恨みは山よりも高く海よりも深い

 一方、「恨み」にもまた人を動かす絶大な力があります。「目には目を、歯には歯を」で有名なハムラビ法典において、「人は恨みを際限なく晴らそうとするため、社会は崩壊しかねないので、等分の報復に制限した」という解釈があるくらいです。

 虐待問題でも、過去の恨みのからむ事例はあります。横暴だった現役時代の夫や父が要介護状態になった途端、妻や子がリベンジする例はその典型です。また、恨みの元になった体験でトラウマを負い、それが後に虐待の引き金となる例もあります。

 このブログ「はじめてのおつかい」でご紹介した、利用者の一言が職員の持つトラウマを刺激したのではないかと思われる事例などです。そうなると、トラウマの治療は専門家にお任せするとして、「恨み」を報復する以外の方法で解消できる道を探りたくなります。

 今のところ私は、「親性」に関する知見は活かせないだろうか、と考えています。たとえば、子どもと接する経験を積むことで親性脳を活発化させ、恨みを司る脳を不活発化するなど、です。もっとも、素人考えに過ぎませんから、儚い夢を見ているだけなのかもしれません。

「『恩讐の彼方』読んだの?」
「おお!菊池寛先生‼」