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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

プロモデラーに学ぶ


想像力と予測力

 先日、回転寿司店で迷惑行為を行った少年に対し、回転寿司店の運営会社が6,700万円の損害賠償を求めて提訴した、というニュースがありました。そして、「この提訴は、迷惑行為を行う想像力の欠如した人々には良い薬になる」という意見があるとも報じられていて、少し気になりました。

 確かに、虐待者にも「想像力」は欠如していますし、「想像力」は支援者に必要な「予測力」と同じようなものですから、虐待者と支援者の組み合わせは、想像力や予測力の欠如した者と、それらに優れることが求められる者の組み合わせだ、と言えます。なんだか、歎異抄の「善人なおもて往生を遂ぐ、況んや悪人をや」を彷彿とさせるような話です。

プロモデラーの先読み

 ところで、「想像力や予測力に優れた」と言うと、決まって思い出す人々がいます。それは「プロモデラー」です。プラモデルをこしらえることを職業にしている人のことですが、その作業過程をモデラーの解説付きで放映している専門のテレビ番組もあります。

 私も好んで視聴してきたため、彼らの想像力や予測力には本当に舌を巻くばかりです。何しろ、キット内容や説明書の確認や参考資料集めに始まる作業工程は非常に多く、先読みした段取りなしには、説明書どおりに組み立てることさえままなりません。

 そのうえ、プロともなれば、部品の切り取りや加工、仮組み、部品の接着、穴あけやヤスリがけ、パテ処理、塗装の下地づくり、マスキング、塗装、スミ入れ塗装、デカール貼り、光沢仕上げなど、全作業における緻密な先読みは欠かせませんから、なおさらです。

チーム介護はスポーツ!?

 虐待事例に対応する者としては、こうしたプロモデラーの優れた想像力や予測力にあやかりたいものですが、チーム対応を前提にするため、さらにもう一ひねり欲しいところです。そこで私は、チームスポーツを参考にすると良いのではないか、と考えました。

 たとえば、バレーボールのブロックは、相手のスパイクを跳ね返して相手のコースに落とすことだけだと考えがちですが、相手のスパイクを味方のレシーバーへとわざと誘導する方法もあるのだそうです。この場合、相手の心を先読みしチームワークで誘導するのだと言います。

 こうした工夫は、前回の「ワンオペの悲劇」で言及した、業務の生産性や効率性の向上にも活かせそうです。たとえば、「チーム介護」のあり方を、チームスポーツをお手本に考えてみると、案外、良いアイデアがたくさん生まれてくるように思います。

「先読みなら、おまかせ!」
「でまかせ、じゃないの?」

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ワンオペの悲劇