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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

渡る世間は「背に腹は代えられぬ」人ばかり


背に腹は代えられない!

 今、「ルフィ」を名乗る指示役が関与したと思われる連続強盗事件が衆目を集めています。多くの高齢者がその被害に遭っているので、高齢者福祉に携わってきた私も、注目せざるを得ません。そして私なりに、報道を通していくつか気づいたことがあります。

 1つには、まるでビジネスモデルのようにシステム化されているという点です。2つには、強盗の実行役たちも、賄賂次第で犯罪さえ見逃す収容所の職員たちも、「背に腹は代えられない」経済状態にあり、そのため目先のお金で悪事も辞さないという点です。

 フィリピンの貧困層の人々のなかには「家族を養うために悪事に手を染めるのはむしろ美徳だ」と考える向きも少なくないといいます。まさに背に腹は代えられない多くの人々により、「お金次第で偽造できないものはない」というほど無秩序になっているのだそうです。

 こうなると、お金目当てに悪事に手を染める人々が、グローバルに悪事を展開し続ける不可視のシステムを構築しているようなものだと言えます。これを虐待に置き換えて考えると、実は従事者による虐待を繰り返す所は案外多く、同様のシステムの存在が疑われるためゾッとします。

介護や保育の現場も背に腹は代えられない?

 たとえば、人手不足についてみてみましょう。経営者は、背に腹は代えられないため、皮肉なことに、「虐待等を行うかもしれない」という不確かな不安には目をつぶり、「お金さえ貰えれば何でもする」という人を雇い易くなります。

 むろん、経営能力が高い場合には、虐待のリスク管理もできるでしょう。しかし、そこに疑問符がつくようだと、困った展開になることがあります。「お金さえ貰えれば何でもする」の「何でも」には、善行のみならず悪行が含まれていても何の不思議もないからです。

 他方で、特別養護老人ホームや保育所の待機者が増えてくると、世論は行政に対して「待機ゼロ」の早急な実現を求めはじめます。するとここでも、背に腹は代えられないと、虐待等の発生する恐れには目をつぶって、「お金さえ貰えれば何でもする」事業者をも認めてしまい易くなります。

 こうして、背に腹は代えられない人々がつながり、「好ましいとは言えないこと」を展開し続ける、不可視の循環システムが構築されてしまうわけです。だとすれば、虐待防止研修には、こうした困った循環システムを、良い循環システムに変えるほどの実効性が求められることになります。

 もっとも、研修担当者は、実行役を恐怖で支配する首謀者や指示役のように振る舞える訳ではありません。そこで私は、研修担当者の方々が「背に腹は代えられない」状態に追い込まれないために、研修の実効性向上のために何をどうすれば良いか、知恵を絞っていきたいと思います。

「ガラじゃないけど、ほらヨ!」
「背に腹は何とやら、ですねェ」