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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

止まった思考の再起動


対話型AIに教えて貰いました

 新しいもの好きの私は、最近話題の「対話型AI(Conversational AI)」に興味津々でした。人間の質問に対してAIが自然言語処理や機械学習を駆使して答えるので、より人間同士に近い会話が可能だといいます。ならば、虐待防止にだって役立ちそうだと思ったからです。

 早速、有名な「chatGPT」に「虐待防止にはどうすれば良いのか教えて下さい」と質問してみました。すると、学生の答案がもし同じ内容であったなら、私はそれなりに良い点をつけるであろうほど、出来の良い答えが返ってきました。以下、原文のままです。

 「虐待を防止するためには、次のようなことができます。1.自分自身の不適切な行動に気づくこと:自分が虐待者となっていないか、自己批判的に考えることが大切です。2.コミュニケーションを重視する:相手の意見や感情に耳を傾け、問題解決のために協力することが大切です。」

 「3.虐待に対する認識を深める:虐待とは何か、どのような形態があるかを学ぶことが大切です。4.虐待に対する支援を提供する:虐待を受けている人に助けを提供するために、自分自身が知っているリソースを利用することが大切です。5.虐待に対する報告を行う:虐待が起こっている場合は、適切な機関に報告することが大切です。」

 ご丁寧にも「6.これらのヒントを念頭に置くと、できるだけ多くの人が虐待から身を守ることができます。」だそうです。学生が皆、さらに進化した対話型AIを使って試験に臨むようになったら、教員はきっと困るのではないでしょうか。道理で、大学は教員に、文章や説などの盗用を見抜く「剽窃チェッカー」を提供してくれるわけです。

不適切ケアの本質は思考停止?

 ところで私は今、不適切ケアを繰り返す従事者の再教育をテーマに原稿を書いています。まだまだ対話型AIに負ける訳にはいきませんから、chatGPTの答えより一歩踏み込んで考えてみたいと思います。そこでまずは、無自覚のうちに繰り返す者と、自覚したうえで繰り返す者に分けて、考察してみます。

 私には前者は、非効果的ケアのスパイラルに陥っているようにみえます。非効果的な声かけや身体接触はその典型ですが、「押して駄目ならさらに強く押す」とばかりにエスカレートしていきます。思考停止の状態なのかもしれません。ならば、「押して駄目なら引いてみる」など、思考を再起動し他の可能性を追求できるようになれば良いわけです。

 一方後者は、「他に方法がないから仕方ない」と強く思い込み、不適切だと思いながらも繰り返しているようです。しかし、あらゆる可能性が否定されてはじめて「仕方ない」のですから、彼らの思考も停止しています。そこで、思考を再起動し、創意工夫できるようになれば改善される筈です。

 したがって再教育では、「他の可能性の追求」と「創意工夫」ができるように、止まった思考を動かすことから始めることになりそうです。

「2035年虐待防止法改正!」
「AIによる虐待が加わった!?」