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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

虐待発生!ハウマッチ?


人口減少ショック

 最近、社会福祉審議会などの委員会に出席すると、「人口減少」という言葉をよく聞くようになりました。4月に国立社会保障・人口問題研究所が「将来推計人口」を発表した影響なのかもしれません。

 発表によると、わが国の総人口は12年連続で減り続けており、2056年に1億人を割って2070年には8700万人にまで減る見込みだといいます。当然、使えるお金も減るでしょうから、事業計画などを審議する委員としては関心をもたざるを得ません。

 ですから、虐待防止対策関連の予算も減額される時がやって来るかもしれません。そうなると、「必要だから予算を増やせ」の一点張りでは通りませんから、今のうちから対策の生産性や効率性を向上させるために、知恵を絞っておいたほうが良さそうです。

 そのためにまず思い浮かぶのは、生産性と効率性の目安となるアウトカム指標の設定です。たとえば、発生率、発見から初動対応までの時間、解決率、再発率などいろいろ考えられますが、少なくともこれらの値を何時でも計算できる仕組みは整えないといけません。

 また、費用対効果も考える必要があります。しかし、虐待には実に多くの要素が絡み合っているので、適切な計算方法を見出すには時間がかかりそうです。ここでは、手始めに、事業者による従事者虐待の防止に限定して考えてみたいと思います。

虐待発生!ハウマッチ?

 従事者による虐待が発生すると、事業者等の為すべきことが多発します。たとえば、行政からの調査を受け、その結果次第で、行政指導や改善命令などの行政処分を受けますから、それらに対応するための費用がかかることになります。

 また、刑事犯罪として虐待者が逮捕や起訴される場合もあります。当該職員について暴行罪、傷害罪などの犯罪が成立すれば、逮捕され起訴される可能性があるからです。ここでも、これらに対応するために費用がかかります。

 しかし、原則、事業者には「使用者責任」があり賠償義務もありますから(民法第715条)、事業者が損害賠償請求される場合があります。以前、職員が入所者を暴行した事例で、裁判所が事業者に数百万円の損害賠償を命じた、と聞いたことがあります。

 利用者が死亡する事態ともなれば額はもっと大きくなります。介護事故による死亡例で数千万円の損害賠償という話はよく聞きますから、虐待事例でも同様に計算にされるとすれば、かなり高額になります。それに、悪評が立てば、その損失も負うことになります。

費用対効果の良い投資?

 結局、相当に多額の損失となるわけですが、「従事者による高齢者虐待の事例検討(その1)(その2)(その3)」に記した「虐待防止の指針」を実現するための費用は、この多額の損失を防ぐための必要経費なのだと言えます。

 もっとも、虐待防止と業務改善を表裏一体のものとして取り組めば、そのまま業務改善になるのですし、虐待が発生して「高すぎる授業料」を払わずに済むことを考えると、投資としての費用対効果は案外良いのではないでしょうか。

「虐待対応の収支計算を…」
「時代ですねぇ…」