ルポ・いのちの糧となる「食事」
食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。
- プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)
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出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。
第157回 高齢者向け宅配弁当のEXPO
宅1グランプリ開催
はじめに
先の日曜(2019年10月20日)、新宿食支援研究会のワーキンググループ(WG)「宅配弁当EXPO」が、WGメンバーの高齢者向け宅配弁当を披露して初の「宅1グランプリ」を開催しました。
地域の高齢者やケア職にアピール
対話のチャンス創造し、サービス向上!
新宿食支援研究会のWG「宅配弁当EXPO」は「高齢者の食事を支える1つの側面は『宅配弁当』です。新宿区内にもいくつかの業者がある中、より良いサービス提供ができるように考えていきます」という趣意で活動しています。
(新食研ウェブサイトより)
今回のイベントはまず新宿区内の宅配弁当業者が住民やケア職にその存在とサービス内容、特長を知ってもらうことをテーマとしていました。主に「咀嚼に問題がある高齢者」をターゲットとして販売されているお弁当の紹介です。
出展した4ブランド(ワタミの宅食<ワタミ株式会社>、宅配クック123<株式会社シニアライフクリエイト>、ライフデリ<株式会社グランフーズ>、ベネッセのおうちごはん<株式会社ベネッセパレット> 以上、当日プレゼン順)がプレゼンと試食の提供を行い、ゲストコメンテーター並びに参加者の投票で「宅1グランプリ」を決定する体(てい)でしたが、順位づけは余興です。
こうしたユーモアを解したスタイルで未来の消費者やケア職とコネクトしようと、出展したオープンな姿勢に拍手を送りたいと思います。
さまざまな介護サービスに共通することとして、必要に迫られなければなかなか関心をもたれにくいということがあり、さらにサービスを提供する側も控え目が過ぎて、残念ながら内向き、閉じている印象が否めません。しかし、それでは予防の期間に関わるチャンスが得にくく、必要な人にサービスが届きにくいでしょう。100円の参加費で、気軽に情報・体験ができるイベントは、「高齢者向け宅配弁当」市場をより豊かにするオープンな試みです。
試食タイムには参加者が各社のおかずの味や物性を確かめながら、担当者と対話を弾ませていました。調理法や味付けのほか、発注や配送の方法などについて、実食しながら直接対話ができる。新宿区という地域の中で、住民やケア職にとっては「宅配弁当」の選択肢が具体的に“見える化”され、業者にとってはいくらか興味関心のある消費者らに直にプレゼンができました。
また、当然ながらプレゼンで強調される点や会場からの質問に対する答えは各社で異なります。他社の発表を聞き、それに対する参加者の反応を見れば、業者のみなさんには自社の強みや課題が見えたかもしれません。商品やサービスのブラッシュアップを考えるうえで、貴重な気づきが得られたのではないでしょうか。
私自身には他者が鏡となってくれることが間々あります。人も事業も同じように縁(環境)で変化するなら、他社が鏡。もっとも、WGの活動自体がすでにそのような縁となり、切磋琢磨を生んでいるのだと思われます。
筆者も、みなさんの発表の違いから「高齢者向け宅配弁当」とひと口にいっても、安全で、健康増進に役立ち、楽しみともなる食事として工夫や配慮可能なポイントが思っていた以上にたくさんあることを再確認しました。
たとえば、見守りやちょっとした御用聞きといった付帯サービスも確かにニーズがあるポイントだろうと思いますが、高齢者の“食”を支える事業なので、付帯サービスとして(毎月というわけにはいかなくても)利用者にふさわしい食生活・食べ方、あるいは生活全体を予防的にアセスメントするようなケアがあると素晴らしいのではないか、と思いました。
頼みたいとき1食でも注文が可能という手軽さにもニーズはあるのだと思いますが、コンビニなどのお弁当と差別化の一手として「月●食+年1、2回の食生活コンシェルジュ」といったパッケージで仕組みづくり、ビジネス設計が可能ではないかとも思いました。
管理栄養士や歯科、または宅配弁当業者など高齢者の食と関わる誰かがビジネスモデルをつくると、地域内食支援と多職種連携の核になるかもしれません。
2017年3月に国が公表した「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」にも「配食継続時のフォローアップ」は明記されています。
ただし、ガイドラインではアセスメントの際の確認事項としてADLやIADLなどを聞く別紙2を参考にとされていますが、そこはぜひICF(活動や参加)やQOLを基準とし、高齢者へ価値の高い食生活の提供を通じて、より高次の先駆例となっていただきたい、などと考えさせられました。
宅1グランプリに参加した各ブランドのものづくりに対する考えや、イベント後日談などについては別にまとめたいと思います。