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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第158回 湘南リフシアネットの
食環境改善事業 Vol.1

はじめに

 今回より5回に分けて、株式会社リフシアネットが取り組んでいる地域高齢者の在宅生活の質を高める「食環境改善事業」についてご紹介します。

地域の介護施設や病院へ
タンポポの「やわらか食」と「えんげ食」

 同社は、“湘南”と呼ばれる神奈川県茅ヶ崎市と藤沢市で、地域の高齢者の在宅生活を支える介護・看護サービスを横断的に展開する株式会社リフシアの子会社として2014年に創業しました。
 創業に至る経緯や、その後の経過は後の回にまとめるとして、まず現在の事業の様子をご紹介すると、「セントラルキッチン タンポポ」(管理栄養士2名、栄養士4名在勤)を中心に3つの展開をしており、中核となっているのは「医療機関や施設に向けた栄養サポート付き配食サービス」です。

医療機関や施設に向けた栄養サポート付き配食サービス

 管理栄養士が献立をつくり、「やわらか食(介護食 嚥下調整食学会分類2013の3に準拠)」「えんげ食(介護食 嚥下調整食学会分類2013の2-1、2-2に準拠)」「普通食」を製造、制限食(食材変更、エネルギー、塩分、たんぱく、それらの組み合わせ)に対応しています。
 物性・素材(献立)によって調理法を変えていますが、基本的には衛生面や保存性、薄味でもしっかり味が入るといった利点から真空調理法が主です。
 真空調理法とは、下処理した材料と調味料を真空パックして低温調理するものです。
 最も製造数の多い「やわらか食」の場合、一部の食材には酵素も利用します。真空パックのまま冷蔵で配送。配送された先、施設厨房で湯煎し、彩りよく盛り付けて提供されています。
「えんげ食」は真空調理法で料理されたものを業務用ミキサーや裏ごしにかけ、加水は控えめで、ゲル化剤を使用して均一のペースト状に仕上げています。煮物など、いくつかの食材が入っている料理は、食材ごとに異なるゲル化比率でパックを分け、冷凍します。
 食べる人が食材の違いを認識して食べることができる盛り付けができ、さらに成型や盛り付けを行う施設厨房担当(介護職など)の業務効率にも配慮して、適切なパック数については議論を重ねているそうです。
 そして盛り付けの際には付属のとろみがついたタレをかけます。タレのとろみ剤は、解凍によって生じる離水を結着するほか、タレの味を変えることで献立数を増やすことにも役立っています。

 写真は試食させていただいた「やわらか食」(右)と「えんげ食」(左)。
 それぞれの皿に「主菜:鶏のてりやき、付け合わせ:いんげん煮びたし」(右)と「副菜:根菜煮(しいたけ、人参、ごぼう、里芋、大根、グリンピース)」がのっています。

 物性の違いを食べ比べさせていただき、食材ごとの風味やしっとり感、噛みやすさ、ばらけ・離水・べたつきのなさを確かめました。
「えんげ食」は歯で咀嚼をせず、「頸部伸展(首を後ろに反らして)」でも食べてみました。
 まず、「やわらか食」「えんげ食」ともに、とてもおいしいお料理でした。
 塩分は1食当たり2g以下になるように配慮して、すべてが薄味と聞いていましたが、塩味は薄くてもしっかり味があり、口になじんだ家庭料理を思わせる素朴な味付けで、おかずになります。

「やわらか食」は限界までやわらかく調理されているとはいえ、やわらかすぎたり、べちゃべちゃしたりはしないので、利用者の幅はとても広いと思われました。
 普通食が食べられる人でも、「やわらか食」のほうが食べやすく、疲れにくく、喫食率が上がる場合も少なくないのではないかと思ったのです。実際に、介護事業所では朝夕は「やわらか食」、昼のみ「普通食」という利用者も多いとうかがいました。

「えんげ食」は野菜がとてもおいしく、しいたけ、人参、ごぼうなど、それぞれ独特の風味が口から鼻に抜けて、それぞれを食べている実感がありました。見た目にも素材の違いを認識し、味の違いを予感しながら食が進みます。
 嚥下調整された鶏肉は、すこし前に流行した泡やジュレのソースのように「トレンド食材」などと言って出されたら信じてしまうかもしれません。“ふわとろ”や“やんわか”などをセールスポイントにする食品も多い昨今ですから、あり得なくもないでしょう。手間をかけた料理と感じるものでした。

右の皿:やわらか食
左の皿:えんげ食
それぞれの皿の右側に「鶏のてりやきといんげん煮びたし」、左側に「根菜煮」


 なお「セントラルキッチン タンポポ」では月に約30000食の製造を行っていて、その約8割は株式会社リフシアが運営しているデイサービスや小規模多機能型居宅介護など12拠点に提供され、それ以外は地域の医療機関などに提供されています。

 次回に続きます。

 *株式会社リフシアネットの食環境改善事業の全サービスに共通する「栄養サポート」についてはVol.3にまとめます。