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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

新刊の紹介『ヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価』

新刊の紹介『ヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価』

 松田淳・村木信爾編著『ヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価-高齢者住宅・施設・および病院の価値の本質』(同文館出版、平成29年1月)の献本を拝読しました。福祉事業の経営を担当する方にも、ぜひお読みいただきたい一冊です。

 この本は、タイトルにある通り、高齢者住宅・高齢者施設・病院等のヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価に関する内容が詳述されています。ヘルスケア施設の不動産ファイナンスにかかわる担当者・専門職には必読文献と言っていいでしょう。

 本書の編著者である村木信爾さん(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科特任教授、大和不動産鑑定株式会社エグゼクティブフェロー)は「本書の対象読者」として、不動産鑑定士、金融機関の融資担当者、Jリート等投資ファンドの関係者、新規参入するヘルスケア事業の関係者、宅地建物取引士、弁護士、公認会計士、税理士等を挙げています(VIII頁)。

 このように、福祉関係者が読者として想定されているわけではありません。しかし、本書のテーマである「ヘルスケア施設の事業・財務・不動産評価」は、日本版CCRCに直結する課題があるため、地域の持続可能性を見据えた福祉事業者の事業計画の策定にも看過することのできない内容が含まれています。

 CCRCとは(朝日新聞キーワードによる)、「Continuing Care Retirement Community」の略です。直訳すると「継続的なケア付きの高齢者たちの共同体」。仕事をリタイアした人が第二の人生を健康的に楽しむ街として米国から生まれた概念。元気なうちに地方に移住し、必要な時に医療と介護のケアを受けて住み続けることができる場所を指します。政府は昨年、有識者会議で「日本版CCRC」構想をまとめました。高齢者の地方移住を促すことで首都圏の人口集中の緩和と地方の活性化を目指すものです(日本版CCRC構想(素案)参照)。

 高齢者の社会資源を商業ベースでもっぱら「評価」することに対しては、異論を唱える福祉関係者がいるかもしれません。しかし、バブル崩壊後の景気対策のために膨らんだ国と地方の莫大な債務増大によって、PFIやPRE戦略等の民間資金導入は、すでにあらゆる公共施設や公共の土地利用で実施されています。たとえば、国立大学法人の建物の維持管理はかなり以前からPFI方式が導入されています。(PFIとPRE戦略については、次を参照のこと(内閣府HP国土交通省HP)。

 村木さんは「はじめに」で重要な指摘をしています。ヘルスケア施設の「価値は事業者の事業能力に大きく依存しているため、ホテル、商業施設等と並んで『事業用不動産(オペレーショナルアセット)』と呼ばれ、オフィスやレジデンスとは見方を変えて評価される」。つまり、事業内容と事業能力が評価を左右する要因として大きく働くため、単純な箱モノの不動産評価ではないというのです(IV頁)。

 そこで、問題となるのは「評価者の目線」をどこに置くかについてです。コマーシャルベースの議論ですから、財務やファイナンス、サービス提供者の目線で考察するのは当然のことなのですが、「忘れてはならないのは施設の利用者である介護施設の入居者、病院の入院患者、その家族の方々の目線および実際に現場でサービスを提供する介護士や医師、看護師の方々の目線である」と指摘します(V頁)。

 支援サービスの利用者とその家族、そして支援者職員をステークホルダーの最重要部分に位置づけて、その満足度を不断に向上させる事業内容と事業能力があるところに、今後の事業経営が成立するのだということになるでしょう。虐待や不適切なケアを放置しているような事業者は、駆逐される宿命を負っているのです。

 さて、日本版CCRCは、地方の期待とは裏腹に、危うい幻想をはらんだ様々な動きが始まっているように思えます。NHKのクローズアップ現代「高齢者の“大移住”が始まる!?~検証・日本版CCRC~」(2016年2月15日放送)は、開発型のCCRCや健康な高齢者の移住構想だけではすぐに破綻に直面する現実を報じました。

 わが国の自治体は、地域の実態と自治に立脚した政策立案能力が高いところばかりとはいえません。前回ブログで指摘した自立支援協議会が丸投げされている問題は、自立支援協議会が施策形成の元となる地域の実態を把握するためには得難い機会であることをまるで認識していないことを意味します。

 それでいて、障害福祉計画を策定するときにはコンサルを雇ったりするようなところには、自治能力のかけらもありません。自治体が進めてきた第3セクターの事業の多くが破綻したように、間違いのない長期的な事業ビジョンを多くの自治体に期待することには無理があるのではないでしょうか。どこの自治体の事業でも「豊洲市場」化するリスクを抱えています。

 そこで、国の補助金付のCCRCとなると、大型の公共事業としての意味はあっても、地方創生には丸でつながらない事態が、全国各地で出来するかもしれません。開発型のCCRCに群がるコンサル、デベロッパー、建設業者だけが甘い汁を吸って終わるという典型的な日本型公共事業に帰結するリスクさえあるでしょう。

 北九州市や千葉市稲毛区などのCCRCの取り組みに展望があるのは、高齢者の移住だけではなく、地域全体として若年人口の増大を目指している点にあります。子育て世代の流入を構想するためには、雇用機会に恵まれる大都市近郊にアドバンテージがあるため、少子高齢化の深刻な地方部の「地方創生」には大きなハンディがあるのです。

 「元気な高齢者の移住」が進むかどうかについても課題が山積みです。NHKの「クローズアップ現代」で宮本太郎さんが指摘するように、わが国の高齢者の大部分は移住を希望していませんし、アメリカのCCRCのような富裕層の移住が期待できる訳でもありません。

 移住する時点では健康な高齢者だとしても、将来的には、介護サービスと医療の必要度は必ず高くなります。日本の地方部のいたるところでCCRCのような構想を描いていますから、将来増大が予想される介護や医療の人材不足を穴埋めすることさえ簡単なことではありません。

 それぞれの地域で実現可能なCCRCを構想するためには、「自治体任せ」で「補助金頼み」の事業計画ではなく、福祉関係の事業者を含む多様な立場の関係者が自治に立脚して歩みをすすめることが切実に求められています。そのための新しい視野と知見を学ぼうとする関係者に、本書をおすすめします。

梅の花蜜を求めて

 さて、日本海側の大雪が続いています。わが家に訪れた束の間の暖かさに、ミツバチが梅の花蜜を求めてやってきていました。春はもうすぐなのでしょう。

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