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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第149回 排泄ケア→栄養ケア・食支援
ケア人のさすが!

はじめに

 興味深く、とても気持ちのいい話を聞きました。医療・介護の専門職向けに食のケアについて情報発信する専門誌編集者から、「メディカルスタッフや介護職の人が栄養ケアや食支援に関心をもった背景を聞くと、そもそもは排泄ケアがきっかけという場合が多いようだ」。
 なるほど、さすが人を癒すことを志す人たち。話を聞いてうれしくなり、感動したので、前回に続き、排泄関係のお話です。

根本的解決を志向すると
食・生活ケアに通じる

 筆者が聞いた編集者の話は、実際の数を調べたわけではないですが、大変納得がいく話です。患者さん、利用者さんの排泄ケアに携わっていて、がんこなトラブル、繰り返すトラブルをなんとかして根本的に改善してあげたい、そんな気持ちから栄養ケアや食支援を学び、実践するようになる。理にかなっていて、プロとして当たり前のようだけれど、筆者は当たり前だとは思いません。
 理にかなっているうえに、プロの魂があり、愛があると思います。
 たとえば便秘であったなら、下剤の利用や摘便といった“排便”ケアにとどまらず、そもそもトラブルなくお通じが出るよう、便を育てる“イク便”に目を向けると、食生活や活動に目を向けざるを得ません。しかし、忙しい中でそれらに目を向けるのはラクではない。目を向けるべきだと思いがあっても、見ないことにする人だっているでしょう。
 ですから「根本的に改善してあげたい」というケアの真心があればこそ、栄養ケアや食支援について学び直し、改善策を探り、挑んでいる方々を讃えたいです。ご苦労さまです。
 患者さん(利用者さん)も、大切に思うご家族も、同じ思いのはずです。

 先日も紹介した書籍「うんトレ」で医療監修をしていただいた排便機能専門医の神山剛一先生は、長期間にわたる下剤や浣腸の乱用で便秘など排便トラブルを重症化させてしまっている人は多いと話していました。
 イク便についてはまったく考えず、便の材料になる食事をしっかりとらずに、すっきり出すことばかりイメージして、出ない、出ないとトラブル視している人が多いとも。それは一般の人だけでなく、医療者にも多いと話していたので、やはり「排泄ケア→栄養ケア・食支援」というケア人は立派です。

 神山先生は高齢者の便秘は、「高齢者の」とひとくくりにすると、解消しにくいものだとも話していました。
 よく高齢になると腸の機能が衰えると言われますが、神山先生は「大腸は老いの目立たない臓器で、その機能については未だブラックボックスである」と言い、高齢になると便秘が増えるのは、糖尿病や腎不全など便秘になりやすい持病や、食生活、下剤の乱用、運動不足など、人の、長年の習慣が影響するためとして、根本的に改善するには個別の、複合的な原因にそれぞれ対処する必要があると話しました。

 まさに栄養や、食支援、生活全般に目を向け、患者さん(利用者さん)自身の意識にもはたらきかけなければ、問題は解決しないということでしょう。
 言うまでもなく、生活の中で「食」と「排泄」は大切な営みです。健康で、ハッピーな日常の土台だと、引き続き身近な患者さん(利用者さん)に伝え続けていただきたいと願います。
 そして、「排泄ケア→栄養ケア・食支援」の仲間を増やすことにもどうぞ一層の尽力を!