メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第160回 湘南リフシアネットの
食環境改善事業 Vol.3

はじめに

 連載158回より全5回で株式会社リフシアネットが取り組んでいる地域高齢者の在宅生活の質を高める「食環境改善事業」についてご紹介しています。

地域の栄養ケアの拠点に
「栄養ケアステーション タンポポ」始動!

 前回までに同社の「セントラルキッチン タンポポ」の中核事業である「医療機関や施設に向けた栄養サポート付き配食サービス」(2014年~)と、2017年から開始した「在宅向け栄養サポート付き配食サービス」についてご紹介しました。
 施設向けも、在宅向けも配食サービスには「栄養サポート」が付帯されています。そして2019年4月からは公益社団法人日本栄養士会認定の「栄養ケアステーション タンポポ」として地域の栄養ケアの拠点となることも志向しています。

「セントラルキッチン タンポポ」では受注の管理や食材・配送の手配などは独自にIT化しており、栄養ケアステーションとなる前から管理栄養士や栄養士は献立づくりと製品開発の傍、顧客に限らず地域住民の栄養相談に当たっていました。
 親会社である株式会社リフシアが運営する介護事業所はもとより地域住民や自治体などとも協力し、地域高齢者に対して「食環境改善」の大切さや、食の問題を放置するリスク啓発、具体的にどのように食べたら健康・QOLを維持増進できるかを伝えるポピュレーションアプローチも続けてきたのです。
 一方、食に関する相談を受けた際には、相談者の希望に応じて担当ケアマネや歯科と情報を共有し、食環境を見守るつながりを整えていく活動もしてきました。
 2019年から栄養ケアステーションとなってより積極的に、地域で働く管理栄養士・栄養士の存在を民生委員、地域包括支援センター、地域の医療機関に広報しています。

「住民の方や、介護職の方などから糖尿病や、いくつか複合的な症状のために制限食となって、どのように食べたらいいのかわからず困っているといった相談が多くあります。
 中には対応が大変難しいケースも含まれますが、アセスメントを行うと、たとえば『味噌汁を削る』といった簡単な調整で済む人も、それがわからず困っていることが少なくありません。
 そのような相談に応じる業務は目下ビジネスではなく、配食サービスの受注にもつながるとは限りません。しかし、今は“簡単なこと”が食べる人の未来を変える大事なことなので、創業時からタンポポは地域のみなさんの食に関するあらゆる相談に応えていきたいと考えて活動してきました。
 そして製品や食材の開発も、計画的にというより、相談された困り事に応じて進めてきたのが正直なところです。
 リフシアの前身、大勝建設介護事業部時代から地元で15年超の在宅支援の歴史があり、さまざまな食の課題が寄せられます。そのような課題の中で『食べる人の食環境改善になること』『管理栄養士・栄養士の成長につながること』は私たちがやるべきことと考えてチャレンジします。
 やる前から『できない』とはいわないで、できることを探すのがリフシアのモラルなのです。
 また嚥下調整食は最晩年のお食事になることもあるものです。それに関わらせていただくことを重く受け止め、栄養プラスアルファのふさわしいお食事を提供することをタンポポの品質管理の基準にしています」(株式会社リフシアネット マネジャー 込山雄一さん)

 お話をうかがって、同社の考える“栄養ケア”は広い意味をもち、栄養状態や体重の改善のみならず、食べる人それぞれの生活歴を重視し、食生活・生活の向上をめざしていると知りました。目的は栄養改善ではなく、食環境改善であり、QOL(ICFの活動や参加)改善というので、栄養+ケアの“栄養ケア”ということです。

「個別ケアをセントラルキッチンでやるというのは矛盾に思われるかもしれませんが、特別なケースというのは全体の中の数パーセントですから対応できます。
 そして今は特別でも、超高齢社会であるため近未来に“標準”になる可能性もあると思って、トライしているんです。
 終末期の食事など、パッケージ化は難しいのは事実ですが、だからといって私たちができることは何もないとは考えず、無限にある課題のひとつとして考えたい」(込山さん)

 なお親会社である株式会社リフシアとともに同社には専門職はその専門性を地域貢献に役立てる業務に注力し、その他の業務はIT化や地域資源の活用で最適化するという社風があり、管理栄養士や栄養士の専門性、地域で活躍する意義も高く評価しています。
 そして地域の食環境改善のためとして、地域に潜在する“ママさん栄養士”が子育てをしながら安心し、意欲的に働ける柔軟な体制をつくっているほか、調理部門では障害者雇用、配送部門では高齢者雇用を実施しています。

 次回に続きます。

茅ヶ崎市社会福祉協議会が開催した「湘北地区社協第3回福祉の体験まつり」にて地域住民にタンポポの嚥下調整食を紹介(2018年12月)。


市民にとっては必要になる前からこうしたサービスが身近にあると知る機会は貴重だ。