福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第68回④
リオン西多摩きょうだい会 代表 山下のぞみさん
「きょうだい会」の存在を知り、支援される側から支援する側へ。
自分らしい人生を送ってほしいから、一人ひとりに踏み込んで伴走型の支援をしていきたい。
東京都生まれ。精神障害を持つ兄、知的障害を持つ姉、健常者の姉と父の5人家族の中で育つ。自分よりも常に家族を優先して成人し、生きづらさに押し潰れそうになっていた25歳の頃、「全国きょうだいの会(障害を持つきょうだいの当事者同士が安心して交流を持つ場)」の存在を知り、交流会に参加する。2015年、20代~30代のきょうだいの交流の場として「ファーストペンギン」、2022年、地元西多摩で「リオン西多摩きょうだい会」を立ち上げる。現在は福祉施設で介護の仕事に就きながら、定期的に開催される交流会や講演など幅広く活動中。社会福祉士、精神保健福祉士。
(※きょうだい 障害者の兄弟姉妹のこと)
- X @LienSiblings メール lien.siblings@gmail.com
- 山下さんブログ
- ヤングケアラー支援協力団体
UPTREE Jr部(アップツリー ジュニア部 )(uptreex2.com)
取材・文 原口美香
―前回は福祉の専門学校を経て、障害者支援のお仕事に就かれたまでのお話を聞かせていただきました。最終回では、「リオン西多摩きょうだい会」を立ち上げた経緯とその活動についてお話を伺っていきたいと思います。
専門学校を卒業した後は実家で再び家族との同居に戻りました。父が長期出張や何かの時には障害のある姉のことを任せたいという気持ちがあって、私も父の望む自分を演じるということをずっと続けていました。でもそれが自分を知り始めてしまってからは、ちょっとずつ崩れていくんですね。職場では利用者さんにできることが姉にはできなくてきつく当たってしまったり、仕事で疲れて帰ってきたのに、姉の食事を作ることに腹を立ててしまったり。
これが障害者虐待に繋がるのではないか、自分はいつか何かしてしまうんじゃないか。自分の中でどう折り合いをつければいいか分からなくなってしまったんです。私のように障害のあるきょうだいがいる人はどう生きているんだろうとネットで調べていた時に、「全国きょうだいの会」の存在を知りました。
初めて交流会に参加した時に「姉をみなきゃいけないのにみられない」という話をさせてもらったら、「それでいいんだよ」と言ってもらえたんです。「きょうだいだからって全部できるわけじゃないんだよ」と。私は障害者支援の仕事をしているから余計に姉に優しくできない自分をすごく責めていたし、自分は二重人格なんじゃないかという葛藤もありました。「きょうだいの会」と関わるようになって、私自身すごく救われたと思います。嫌なことを嫌と言える、自分の気持ちを優先することも出来るようになりました。父には本音を話すことがなかったのですが、正直な気持ちを伝えられるようになりました。
2015年、東京を拠点に障害者のきょうだいを持つ20代から30代の子たち交流の場として「ファーストペンギン」を立ち上げました。月に1回集まって同じ立場ならではの悩みを話し合ったり、弁護士や福祉職も交えて「親なきあと」や「成年後見」などの 勉強会を始めたり、講演会なども企画しました。
「ファーストペンギン」には5年か6年関り、今度は一人ひとりの持っている悩みにもっと踏み込んだ支援をしたいと思い、2022年、「リオン西多摩きょうだい会」を立ち上げました。地域を西多摩に限定したのは私の地元ということもあるのですが、何かがあったときに私が駆け付けられる範囲との考えもありました。大切にしているのは寄り添うこと。そして、今の自分に自信を持ってもらえるように出てきた思いや言葉を否定せずに共感し、それでいいと伝え続けること。伴走型の支援です。
―「リオン西多摩きょうだい会」に参加しているメンバーにはどんなことを思いますか?
自分の力を信じてもらいたいなということをよく思います。自分のいいところを見つけられていない子たちが本当に多いんです。家庭の中で褒められたり受容されたりしたことがなくて、自己肯定感が低いまま大人になってしまう。頑張っているのに、もっと頑張らなくてはいけないと感じてしまう。
私たちはメンバーのいいところを口に出して伝えて、もう十分頑張っているよ、ということも伝えていきたい。人を頼ることがどういうことなのか分からない子もいるんです。
きょうだいたちの親はそれぞれ「ちょっと我慢してね」「言わなくてもわかっているよね」という気持ちでいたのだと思うのですが、子どもは伝えてもらわないとわからないんです。その経験が抜け落ち察することを求められ、それが的中しないと親が微妙な空気になる。そうするといつも心の中に「不安」だけが溜まっていくんです。ですので、私たちは傾聴し、一つ一つの言葉を拾いあげてそのままの言葉で返していきます。私たちは答えをあまり言いません。でも、本人が話したことを返すだけでみんな自分の素敵な所に気づいて、進む方向を少しずつ選んでいけるようになると最近実感しています。
家族がバラバラにならないように、でも時にはちょっと家族と距離を置くことも必要だと思っています。自分を大切にして、一人ひとりが自分らしい人生を歩んでいってほしいと思います。
―ありがとうございました。
子どもきょうだいのためのワークショップにて。
- インタビューを終えて
- ずっと何かと闘ってきたようだったとおっしゃっていた山下さん。血縁がなくても「気にかけてくれる人」の存在は、その後の人生を左右する大事なものになるのだということを改めて思いました。現在は時折、お父さんと親子としての時間を取り戻したり、知的障害をもつお姉さんと穏やかな時間を過ごしたりしているというお話も聞くことができ、とても温かな気持ちになれた取材でした。
- 久田恵の視点
- 山下さんの体験とその思いに触れ、私も大変だった母の介護中、つい幼い息子のことを後回しにしてしまった日々を思い、涙がこぼれてしまいました・・・。
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館