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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

「人の判断を笑うな」


 介護現場で働いていると、さまざまな場面で判断を求められます。
 ご利用者の変化は、バイタルサインに表れるものもあれば、「なんとなくおかしい」というようなものもあります。認知症の方のなかには、それを言葉で表現することがむずかしい方もいますし、言葉自体を発することがむずかしくなっている方も少なくありません。
そういった方たちの「言葉にできない変化」を読み取り、アプローチ方法を考えるのです。
 医療につなぐ必要があるとき、救急車を呼ぶのか? 往診を依頼するのか? 病院に行く? 看護師にオンコール? 家族には? 身元引受人が後見人の場合は? …など。
 夜勤中であれば、少ない人数配置のなか、さらに判断がむずかしくなります。
 50人のご利用者を2人で見る。こんな夜勤配置が妥当といえるでしょうか。
 介護職の処遇改善は、給与面だけでなく、こういった業務上の無理、矛盾改善も検討してほしいところです。

 コロナ禍になり、介護現場はこれまで以上に判断がむずかしい問題を抱えるようになりました。救急車を呼んでから何時間も受け入れ病院が決まらず、施設から遠く離れた病院に行くことも何度もありました。
 感染対策の観点から、施設内への外部の方の受け入れについても、随分と悩みました。緊急事態宣言やコロナ陽性者の人数、そういった情報にも気持ちが揺れます。ご利用者とご家族との面会も、オンラインが中心となり、直接会っていただくことは、特別な場合を除いて中止しました。それが正しいのかどうか、わかりません。不満の声も聞かれます。でも、もしそれによって施設内で感染が出てしまったら…。大切なご家族をお預かりするからこそ、よい顔だけすることもできませんでした。

 先日、男性利用者A様の状態が明らかに変化し、残された時間が短いことを感じました。A様が娘様のことをどれだけ大切にされてきたか。娘様がどれだけお父様のことを心配しているか。愛しているか。その気持ちは私たち職員にもわかっています。
 ただし、施設内はまだフロアに上がっての面会は実施していません。
 さまざまな意見、考え方がありますが、最後は「人生の最期を迎えようとしているのに、愛する家族と会う機会を奪う権利は私たちにはない」と思い、面会していただくことにしました。

 父と娘です。
 お二人を見て、その場にいた職員全員が「会ってもらえてよかった」と心から思いました。

 医療、病院だけが命の現場ではありません。
 介護もやはり命の現場なのです。

 私は、現場でそのとき、その瞬間に職員が判断したことを否定しないようにしています。そこにはさまざまな不確定要素があり、そのなかで職員は最良と思う選択をしているのです。それを、ああしたほうがよかった、なぜこうしなかった、と責めるのは、後出しジャンケンのようなものだからです。

 命の現場で必死に闘う職員たちを、社会全体が理解し、応援してほしいです。