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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)がある。

著書

『最強の介護職、最幸の介護術』
『最強の介護職、最幸の介護術』

「大事なのは、思い出すことではなく、忘れないこと」

 前回のブログ更新が、3月10日。東日本大震災の前日だったのですが、あえてそのことを書きませんでした。

 毎年、8月になると、メディアは思い出したかのように戦争のことを取り上げてきました。しかし、最近ではその時期になっても、戦争を題材にした番組や作品が放送されることが少なくなった印象です。

 東日本大震災から、今年で10年。今年は震災のことが多くメディアで取り上げられました。しかし、この原稿を書いている3月10日の翌週、メディアはまたコロナ一色になっています。

 10年前の震災で、ある高齢者施設が津波に飲み込まれました。多くの利用者と職員が亡くなり、行方不明になりました。
 この日、迫ってくる津波から一人でも多くの利用者を守ろうと、職員は利用者を担いで上の階へ階段を必死に上がったそうです。自分で動けない高齢者を守るために、若い職員たちが命がけで利用者を守りました。

 わたしは、ご縁があってその施設で職員に命を救われた女性利用者に出会いました。
 しかし、彼女の心は深く傷ついていました。ほとんど誰とも喋りませんでした。食事や水分もほとんど摂ろうとしない。彼女は死のうとしている…いや、生きようとしていないように見えました。
 彼女の気持ちは…。
 「なぜ、こんなババアを助けた。自分でまともに動くこともできないこんなババアを助けて、なんであんな若い人たちが死ななきゃならなかったのか。わたしは職員さん、職員の家族の方に申し訳なくて…」
 それが、彼女が生きるための行為(食べる、飲む)をしない理由だったのです。

 ある職員が、その方の介助をしているときに、大きな声が聞こえてきました。
 「いいかげんにしなよ! いつまでそうしてるつもり!? 死にたいなんて、よく言えるね! 職員の人たちは、〇〇さんに生きてほしくて…、命がけで〇〇さんを助けたんじゃないの!? 助けてくれた職員さんのためにも、生きていきなよ! 食べて…、笑って…、生きていきなさいよ!」
 職員は泣いていました。命を救われた利用者さんも。

 その日を境に、利用者さんは食べるようになりました。
 「東京の人間は、こんなまずい魚をよく食べてる…」と食事に文句ばかり言いながら。
 そして、よく喋り、よく笑ってくれるようになりました。

 戦争も、震災も、そしてコロナも、たくさんの人が亡くなり、たくさんの人の心が傷つき、それを乗り越えるために、闘っている人たちがいます。

 大事なのは、思い出すことではなく、忘れないことです。
 もっとやさしい社会に…。
 わたしたちが生きている今日は、多くの人が生きたかった今日なのです。

新刊のお知らせ(編集部より)

このたび、山口晃弘氏の著書が発行されました!
テーマは、介護現場の「リーダーシップ」と「人材育成」です。

現場の職員から「一緒に働きたい!」と思われる人気者リーダーになるために、役立つ知識、使えるツール、心揺さぶられるエピソードが満載の一冊です。ぜひ、ご一読ください!

介護リーダー必読!
元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意
定価 本体2,000円(税別)
A5判、218ページ
ISBN978-4-8058-8278-8