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和田行男の婆さんとともに

和田 行男 (和田 行男)

「大逆転の痴呆ケア」でお馴染みの和田行男(大起エンゼルヘルプ)がけあサポに登場!
全国の人々と接する中で感じたこと、和田さんならではの語り口でお伝えします。

プロフィール和田 行男 (わだ ゆきお)

高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。
特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は株式会社大起エンゼルヘルプ地域密着・地域包括事業部 入居・通所事業部部長。介護福祉士。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

二つのことを同時にしない

 4人の入居者と一緒に散歩に出ました。

 そのうちの一人トメさん(仮名)は「屋外歩行時は付き添い」が必要な方でしたが、「自分ならトメさん以外に自力歩行可能な3人と一緒に散歩はできる」と思った僕は、あるところまで歩きます。

 トメさんは時折、歩道の凸凹につまずきかけることがありましたが、何事もなく目的地に着き、施設に戻り着くほんの手前でのことです。

 トメさんは淡々とひたすら歩くので、のんびり歩いていた3人と距離が離れてきました。そのため、トメさんの付き添いをしながらもチラチラ後方を確認しながら歩いていました。

 僕は「付き添い支援」の時は、付いている方(この時はトメさん)が自分とは反対側に倒れようとすることを想定して、トメさんの真横で正面を向いて歩くのではなく(トメさんとの角度が180度)ではなく、トメさん側に身体の角度を振って、身体を斜めに(トメさんとの角度が140度というように)付き添います。
 こうすることで、トメさんの瞬間の動きに機敏に対応できますし、トメさんを視野におさめながら後方を見ることが容易くなります。

 ある地点まで戻ってきたときのことですが、それまでと同じようにチラッと後方を見ると、3人の姿がありません。

 「あれ、どこに行ったんだろう」

 もう少し首を振る角度を大きくして「チラーッ」と振り返ると、3人が焼肉屋のショーウィンドウの前で立ち止まっている姿が目に入ったその瞬間です。
トメさんが歩道の凹凸につまずいてしまい、後方に気がいっていたこともあって対応が遅れてしまい、トメさんを救えず転倒させてしまいました。

 「二つのことを同時にしない」

 常々自分に言い聞かせていたことを、僕の慢心が犯してしまいました。

 この時の僕の対応として必要だったのは、瞬間でもトメさんから「視」も「気」も離れるほど後方を確認したいのであれば、一旦トメさんの「歩」を止めて立ち止まり、つまずく要素を消してから行うべきでした。

 このように、二つのことを同時にしようとして事故につながるケースはよくあるのではないでしょうか。

 付き添い支援が必要な方を、ある目的のために移動支援していた職員が、その目的地の手間でコトを急いてしまい、付き添いが必要であるにもかかわらず利用者・入居者から離れてしまうことで起こる事故なんかがそうですね。

 歯磨きのために洗面所に向かい洗面所の手前で、歯ブラシを準備しようと自分だけが洗面所に向かってしまって転倒させてしまったり、エレベータのボタンを先に行って押そうとして転倒させてしまったり、トイレ介助に入ってから替えのオムツを忘れたので取りに行って戻るとトイレ内で転落していたなど、二つのことを同時にしようとして起こる事故です。

 そもそも、付き添いが必要な人から付き添いをとったら無支援ですからね。どうしても二つのことが必要になったら、一旦利用者・入居者の動きを止めて=付き添わなくてよい状況を構築して(必要な支援策をゼロにして)から新たな支援(必要なこと)に取り組むことです。

 グループホームなんかでは、調理支援をしている最中に離れた場所から音が聞こえてきたので、「一緒に調理をしていた入居者(認知症の状態にある方)」と「火のついているガスコンロ」をそのままにして、調理支援をしていた職員がその場を離れてしまう光景を目にしたことがありますが、かなり危険なことですからね。

 利用者・入居者とその家族、そして自分のことを護るためにも、先人の「急いては事を仕損じる」に学んで「ひとつずつ確実に行うこと」を大事にしていかねばです。

写真

 写真がわかりにくいのですが、お昼休みのオフィスで、職員さんたちがずらっと並んで横になって休んでいるのですが、ベトナムでは普通にみられる光景のようです。
 僕のような客人が来ていても「いつも通り」っていうところがいいですよね。