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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第21回 私的には皆が違っていい

嫌いな人とも仕事をするのが職業人

 福祉職をはじめとする対人援助職は、好き嫌いで利用者を選ぶことができません。プロフェッショナルともなれば、「この利用者は嫌いだから援助しない」というわけにもいかないのです。それと同じように、好き嫌いで同僚を選ぶこともできません。たとえ嫌いなスタッフとも、一緒に仕事をするのが職業人なのです。学生であれば、成績は個人単位で評価されますので、嫌いな人を避けながら勉強しても、何とかなるかもしれません。しかし、チームで仕事をする職業人が苦手な人を避けていては、仕事になりません。そこで、嫌いな人とも仕事ができるように、職業人として成長することが求められます。同僚に対して抱く自分の感情を理解(自己覚知)したうえで、その感情に対処しながら、同僚とうまく連携することが求められるのです。

職場理念の共有と私的価値観の受容

 前回にも述べた通り、職場でみられる好き嫌いの人間関係は、多くが類似性の要因から生じます。価値観の違いなど、嫌悪の感情につながる非類似性の要因には、どのように対処すればよいのでしょうか。対処法は二つあります。その一つは対決であり、価値観が同じになるように、徹底的に話し合います。そして、話し合っても同じにならなければ、関係を断つことになるのです。もう一つの対処法は受容であり、それは違うことを前提として、共存することを目指します。第1回で紹介した職場の理念は共有しなければならず、もしも違う考えの同僚がいたとすれば、同じになるように対決しなければなりません。しかし、個人の私的な価値観まで同じにするのは、難しいでしょう。一人ひとりの生活環境、成育歴、持って生まれた特性などは異なります。そのために、私的な価値観は異なるのが当然であり、異なる価値観を受容して共存することを目指す方が、よほど現実的なのです。

異なる相手を受容するヒケツ

 日本は欧米に比べると極めて同質性の高い社会であり、そのために同じことに慣れており、「同じことはよいこと」と思う人が大勢います。そこで、自分と異なる人に同調圧力をかける人までおり、受容するのが実は苦手なのです。自分と異なる価値観の相手をうまく受容するためには、「好き嫌い」や「善い悪い」などの審判を、頭ごなしに下さないことです。最初から審判的態度で臨むと、「嫌い」とか「悪い」と判断した相手を受容できなくなります。審判はわきにおき、相手の話に耳を傾けてみるのです。そうすると、相手の価値観の背景にある生活環境や成育歴などが見えてきます。そして、例えば「自分の健康一番は変わらないけど、相手がお金を一番にしているのもよくわかる」というように、相手を受け容れることにつながるのです。

相互理解を深める価値交流学習

 次の価値交流学習に取り組むと、価値観の異なる相手の受容が促されます1)2)。まずは表1にある権力、健康、学歴、愛情、名誉、金銭、誠実の7つの項目について、自分が大切だと思う優先順位を1~7の順に、「自分」の行に記入します。次に、3~4人で一組になり、他の人の氏名と優先順位も自分の下の行に書き写します。そして、10分間の話し合いで合意できた順位を、「合意」の行に記入していきます(表2)。その際に大切なのは、平均値を求めたり多数決を取ったりせず、あくまでも話し合うことです。この学習のねらいは結論を出すことではなく、相互理解を深めることです。ですから、10分間の話し合いで結論に至らなくても構いません。平均値や多数決で決めてしまえば、相互理解は深まりません。それぞれが自分の優先順位の理由を語り、それに互いが耳を傾けることにより、はじめて相互理解が深まるのです。

文献:
1)諏訪茂樹『看護のためのコミュニケーションと人間関係』中央法規出版、2019、p138 – 143
2)諏訪茂樹『対人援助とコミュニケーション 第2版』中央法規出版、2010、p81