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スタッフの定着・成長を支える
リーダーシップとマネジメント

 今、介護をはじめとする福祉の職場では、新人スタッフの定着と成長が課題となっています。例えば介護職員などは、入職後4割が半年で辞めるという統計もあり、高い離職率が問題となっています。また、離職の背景として、給料や休みなどの労働条件の他に、職場の理念や運営方針、将来の見通しがたたない、人間関係などが指摘されています。
 この連載では、コミュニケーション論、人間関係論、集団・組織論がご専門の諏訪茂樹先生に、これらの問題をわかりやすく説明していただき、さらには具体的な解決策についても触れていただきます。福祉の現場でのリーダーシップやマネジメントの基本を学んで、あなたの職場のスタッフの定着と成長を支えていきましょう!

けあサポ編集部

諏訪茂樹(すわしげき)
著者:諏訪茂樹(すわしげき)

人と人研究会代表、日本保健医療行動科学会会長、東京女子医科大学統合教育学修センター准教授、立教大学コミュニティー福祉学部兼任講師。著書として『対人援助のためのコーチング 利用者の自己決定とやる気をサポート』『対人援助とコミュニケーション 第2版 主体的に学び、感性を磨く』(いずれも中央法規)、『コミュニケーション・トレーニング 改訂新版 人と組織を育てる』(経団連出版)、他多数。


第20回 好き嫌いの条件

外見上の要因と近接性の要因

 好き嫌いの問題に対処するうえで、知っておきたいのが好き嫌いの条件です。これまでの研究をまとめると、好き嫌いの条件はおよそ次の五つの要因に整理することができます1)。一つ目は外見上の要因です。人は外見ではなく中身だと、多くの人が思います。しかし、「中身で勝負する」といって、部屋着のままで面接試験に臨む人はいないでしょう。多くの人はしっかりと身なりを整えて、面接試験に臨みます。それは、身だしなみなどの外見が初対面では特に重要となることを、知っているからです。二つ目は、会えば会うほど親しくなるという、近接性の要因です。何回か会っているうちに、親しみを感じるようになります。ですから、初対面で親しくなれなくても焦る必要はありませんが、とにかく会う機会を増やすことが大切です。

自己開示の要因

 ただし、どれだけ会っても仕事上の話や社交辞令に終始すると、なかなか親しくなれません。逆に会って間がなくても、仕事以外の個人的な話をすると、親しみを感じることができます。そこで、三つ目の要因としてあげられるのが、私的で内面的な自分について語る自己開示です。歓迎会、送別会、新年会、納涼会、忘年会、慰労会、運動会、研修旅行などと、かつての職場では仕事を離れて自己開示できる機会がたくさんありました。ところが、昨今の職場では、表面的な成果主義の導入、非正規雇用の増加、ライフワークバランスの推進などにより、スタッフ同士が仕事以外で接する機会が著しく少なくなり、その結果、自己開示する機会も減ってしまいました。スタッフ同士が互いに疑心暗鬼に陥らないよう、安心して自己開示できる機会を意図的に設ける努力が必要になっています。

類似性の要因

 やがて人間関係が深まっていくと、やはり外見ではなく中身が大切となります。四つ目は中身の一つであり、それは類似性の要因です。「類は友を呼ぶ」というように、何か共通点があると親しくなります。例えば、会話をしているうちに出身地が同じであることがわかると、急に親しみを感じることになるでしょう。さらに、ライフスタイルや価値観が類似していると、仲良くなりがちです。逆に、出身地が異なるぐらいで嫌いになることは稀ですが、ライフスタイルや価値観が異なると非類似性の要因となり、トラブルへと発展することもめずらしくありません。職場でみられる好き嫌いの人間関係は、多くが類似性の要因で生じているといえます。嫌悪の関係のもととなるのが非類似性の要因ですが、それへの対処法については、次回、詳しく述べることにしましょう。

相補性の要因

 好き嫌いの条件の最後も、やはり中身の一つです。それは、補い合うことでうまくいくという、相補性の要因です。たとえば自分は人づきあいが苦手で、それが欠点だと思っているとします。そうすると、社交的な相手に相補性の要因が働き、憧れることがあるのです。逆に、たとえば自分は田舎者で、それが欠点だと思っているとします。そうすると、地方出身の素朴な人に非相補性の要因が働き、嫌な気持ちを抱くこともあるのです。以上の五つの要因を考慮に入れながら、職場で嫌悪の関係を回避もしくは改善し、好意の関係を形成・促進しようとするならば、次のようになります。まずは(1)身なりを整えて、(2)頻繁に会うようにし、(3)仕事以外の個人的な話題も共有するようにします。そして、(4)互いの共通点を見つけると同時に、(5)互いに補い合う関係を築くことが、効果的だと言えるのです(表)。

文献:
1)諏訪茂樹『看護のためのコミュニケーションと人間関係』中央法規出版、2019、p120 – 125