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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

令和2年度被措置児童等虐待の対応状況から


 障害児入所施設の虐待防止研修の仕事と関連して、児童福祉施設の職員による虐待について調べていました。

 児童福祉施設の職員による虐待防止は、障害者虐待防止法といささか仕組みが異なります。児童福祉法は施設職員による虐待の禁止を定めています(第33条の11及び第44条の3)が、施設職員による虐待への対応については明記していません。

 そこで、2007年の児童虐待防止法及び児童福祉法の改正を受けて、厚労省は2009年に被措置児童等虐待対応ガイドライン(通知)を出し、施設職員による虐待防止の取り組みを進めることになりました。今年の6月には、改訂版の新しいガイドラインが出ています。

 児童福祉施設の職員による虐待事案への対応は法にもとづく実務ではなく、ガイドライン(通知)による対応です。この点には、疑問を抱きます。

 今年の6月の新しいガイドライン(厚労省子ども家庭局、社会・援護局障害保健福祉部『被措置児童等ガイドライン』令和4年6月15日)の冒頭に、「この通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言であることを申し添える」とあります。

 平たく言えば、自治体はこのガイドラインを参考に施設職員の虐待対応の取り組みを進めてくださいという位置づけであり、この通りしなければならないという法的な縛りは無いということです。

 地方分権を進める主旨に即した政策誘導の手立てかも知れませんが、高齢者虐待防止法と障害者虐待防止法はともに施設職員による虐待防止の取り組みを具体的に規定しています。支援に人権擁護を貫くためには、児童虐待防止法も施設職員による虐待防止の取り組みを定める法改正が必要なのではないでしょうか。

 厚労省『令和2年度における被措置児童等虐待への各都道府県市等の対応状況について』によると、虐待と確認された件数は121件です。これを施設種別の内訳でみると、乳児院5、児童養護施設67、児童心理治療施設8、児童自立支援施設6、里親・ファミリーホーム20、障害児入所施設等11、児童相談所一時保護所(一時保護委託を含む)4となります。

 同年3月、東京都は『東京都児童相談所一時保護所支援改善検討会報告書』を明らかにしています。一時保護所における支援が、慢性的な定員超過の続く下で、子どもたちに対する抑圧的な管理に傾きがちである点の改善が必要であることを指摘しています。

 子ども虐待は毎年増加し続けてきましたから、確かに一時保護所の職員の皆さんには大変なご苦労が続いていると思います。しかし、一時保護所職員による虐待が、令和2年度にわずか4件という数値は、あくまでも「氷山の一角」ではないかという強い疑問を払拭できません。

 さて、令和2年度の児童福祉施設職員による虐待の『対応状況について』の中に、まことに興味深い調査結果がありました。

 虐待の発生した「施設の運営支援体制の状況」(同報告書7頁)について、8つの項目に対する5件法の回答結果を明らかにしています。

 5件法の回答結果は、行論の都合から簡略化して提示することにします。「できている」「どちらかというとできている」を「肯定的回答」、「どちらかというとできていない」「できていない」を「否定的回答」としてそれぞれ括ります。「どちらとも言えない」はそのままです。

 回答結果は次のようになります。数値は職員による虐待の発生した施設数(n =101)、( )内は%です。

  • 1.「特定の職員が子どもを抱え込まないような支援体制が整えられている」
    肯定的回答33(32.7%) どちらでもない15(14.9)  否定的回答53(52.5)
  • 2.「施設職員と施設長などが意思疎通・意見交換を図り、施設の風通しが良い」
    肯定的回答35(34.7)  どちらでもない11(10.9)  否定的回答55(54.5)
  • 3.「外部からの評価や意見を受け入れるなど、施設が開かれている」
    肯定的回答34(33.6)  どちらでもない40(39.6)  否定的回答27(26.7)
  • 4.「第三者委員の活用がなされ、子どもたちにその役割を周知している」
    肯定的回答44(43.6)  どちらでもない39(38.6)  否定的回答18(17.8)
  • 5.「職員が種々の研修に参加しており、虐待等への認識の共通化がなされている」
    肯定的回答55(54.5)  どちらでもない15(14.9)  否定的回答32(31.7)
  • 6.「スーパーバイズ体制が整えられ、自立支援計画のマネジメントを実施している」
    肯定的回答36(35.6)  どちらでもない31(30.7)  否定的回答34(33.6)
  • 7.「子どもの意見を汲み上げる仕組み等が整えられている」
    肯定的回答43(42.6)  どちらでもない28(27.7)  否定的回答30(29.7)
  • 8.「自立支援計画策定時の子どもの意向や意見を確認している」
    肯定的回答40(39.6)  どちらでもない52(51.5)  否定的回答 9( 8.9)

 肯定的回答が過半数を占める項目は、5.の「職員が種々の研修に参加しており、虐待等への認識の共通化がなされている」だけです。

 また、2016年児童福祉法の改正によって、子どもの権利条約の方針が総則に明記された子どもの意見表明の尊重についても、7.と8.の質問項目にあるとおり、過半数の施設で児童福祉法を遵守しているとは言えない実態が明らかになっています。

 これら回答結果の特徴は、職員に「虐待等への認識の共通化がなされている」という回答が過半数であるのに、そのような共通認識にもとづく具体的な虐待防止の取り組みである5.以外の項目は、肯定的回答が過半数になっていない点にあります。

 職員に「虐待についての共通認識」はあるのに、特定の職員が子どもを抱え込み、職員間の意思疎通や風通しは悪く、自立支援計画のマネジメントも実施できていない施設の方が多いのです。

 つまり、職員による虐待の発生する施設には、虐待防止研修を受けているとしても、組織の管理運営、人間関係、職員の専門性、施設の閉鎖性・密室性等を柱に据えた、虐待防止に資する具体的な実務には手をつけていない傾向があるということになります。

 これまでの「虐待防止研修」は虐待防止の実務には結実せず、サービス管理責任者研修も個別支援計画のマネジメントの実務には結びついていないという実態が露わです。

 虐待防止研修は、それぞれの支援現場の実態に即した内容づくりをすることが肝心です。現場の実態を正視しないまま頭の中でこねくり回しただけの研修内容を「研修ビジネス」として展開するのは最悪のパターンです。

大久保の大けやき

 埼玉県の木はケヤキ。画像は、埼玉大学の近くにある大久保の大ケヤキです。幹回りは9.4m、高さは20mあり、樹幹の太さでは埼玉県で最大です。フルサイズで20mmの超広角レンズでもケヤキの全体をカメラに収めることができません。伝説によると、人魚の肉を食べて若さを保ち、800歳まで生きたという八百比丘尼(はっぴゃくびくに)が植えたとあります。この比丘尼は、死ぬまで15~16歳の若さに見えたそうですから、若さを保ちたい女性のパワースポットかも知れませんよ(笑)。