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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

さいたま市における障害者差別解消の取り組み


 本日から、さいたま市のホームページで、『障害のある方にとっての困りごと事例集~コロナ禍で抱える困難と合理的配慮~』が公開され、ダウンロードもできるようになりました(https://www.city.saitama.jp/002/003/004/001/002/004/p089673.html)。

障害のある方にとっての困りごと事例集-さいたま市

 さいたま市障害者の権利の擁護に関する委員会は、昨年度から、この事例集の作成に取り組んできました。障害のある人のCovid-19禍における差別・困難事例を市民から収集して整理し、この6月20日の委員会で最終的にまとめ上げることができました。

 2020年からパンデミックへと拡大したコロナ禍の下で、障害のある人の暮らしに表れた困難や差別の事例と合理的配慮の好事例をまとめています。ワクチン接種などのCovid-19に直結する困りごとがある一方で、普段からある差別・困難をCovid-19禍があぶり出した事例のあることもたくさん明らかになりました。

 事例集は、(1)多くの声が寄せられた困りごと、(2)困りごとに対する合理的配慮の好事例、そして〈資料編〉として収集されたすべての困難・差別事例を障害特性や領域別に分類したものから構成されています。

 合理的配慮については、できる限りの掲載を心がけましたが、状況によって個別具体的な内容が変わるため、今回は、一般的内容として例示できるものにとどめました。

 「(1)多くの声が寄せられた困りごと」を要約すると、次の6ケースです。
・セルフレジの導入による買い物困難(視覚障害のある人)
・マスク着用による口元視認の困難(聴覚障害のある人)
・感覚過敏やこだわりによるマスク着用の困難(発達障害や知的障害のある人)
・学校や通所支援事業所の休業による困難(生活リズムの崩れ、家族のケア負担の増大等)
・知的障害のある人にとって曖昧で理解しづらい「人と人との距離を保つ」というルール
・情報への的確なアクセスの困難(事態が変化する中で、緊急事態宣言・特別定額給付金・ワクチン接種などの膨大な情報が、難解な言葉を伴って発信されたこと)

 「(2)困りごとに対する合理的配慮の好事例~こんな配慮があったなら~」(以下、〔 〕内は事例数)は、「買い物場面〔5〕」、「外出場面〔4〕」、「仕事〔4〕」、「医療機関への受診・ワクチン接種〔5〕」、「情報へのアクセス〔3〕」という5つの生活場面に分け、合計21事例を掲載しています。

〈資料編〉に掲載した259事例の内訳は次の通りです(〔 〕内の数字は事例数)。
(1)障害特性の理解について〔17〕
(2)情報へのアクセスについて〔36〕
  ・ICTの活用について
  ・実践事例、配慮事例
  ・対面制限によるコミュニケーション困難
  ・情報の理解について
(3)ワクチン・PCR検査等について〔52〕
  ・ワクチンの情報について
  ・ワクチン接種予約について
  ・優先接種・施設での接種について
  ・PCR検査について
  ・医療機関の受診について
  ・コロナウイルス感染症以外の医療について
  ・その他医療に関すること
(4)ケアラー・在宅での支援について〔17〕
(5)生活場面ごとの困りごとについて〔45〕
  ・店舗等での困りごと
  ・外出
  ・その他の生活の困りごと
(6)交流などについて〔18〕
(7)面会について〔4〕
(8)マスク着用や感染症予防について〔4〕
(9)就労関係について〔7〕
(10)福祉サービスや教育機関について〔47〕
  ・障害当事者の困りごと
  ・施設の困りごと
(11)教育場面での困りごと〔12〕

 この事例集は、さいたま市の市民・事業者に周知するとともに、改正障害者差別解消法の施行に向けたさまざまな取り組みに活用していく予定です。

 とくに、この事例集の市職員・教員への周知と研修は重要です。市の職員・教員のすべてが障害者差別とその対応への的確な理解と所作を獲得することは、市内全域の差別解消に向けた大きな社会的基盤の形成に寄与するものと考えています。

 また、すべての職員に差別解消への取り組みを方向づけする立場にある市の幹部職員については、この事例を活用した研修の徹底を図っていく方針が委員会で確認されました。

 令和6(2024)年度辺りに、改正障害者差別解消法が施行される予定です(期日は未定です)。この改正法は、民間事業者における合理的配慮の提供が、これまでの努力義務から法的義務に変更されます。

 そこで、改正法の施行に向けた取り組みの一環として、民間事業者の皆さんにもこの事例集を周知し、活用していただける方向づけを図ることが大切です。

 差別解消の取り組みは、「告発して罰則を科す」ものではありません。障害と障害のある人の困難への無理解をなくし、差別を克服するための知恵を出しあってみんなで共有しながら、一つ一つの問題解決を積み重ね、インクルーシヴな社会を作っていく営みです。

 ひとまず、改正法の施行に向けて、民間事業者から合理的配慮の提供に係わる相談を受ける部署をさいたま市に設置することにしました。ここで、さまざまな合理的配慮をどのようすればいいのかについて、民間事業者・行政・専門家等が一緒に考え、民間事業者の人たちが「構えず、気楽に」合理的配慮の提供を進める環境を整備することにしたのです。

 これは、当面の試行的な取り組みですが、相談状況や対応経験の蓄積を踏まえて、今後の、民間事業者の合理的配慮の提供に係わる相談支援体制のあり方を改めて検討する予定です。

 さいたま市における差別解消の取り組みは、ノーマライゼーション条例と障害者差別解消法を組み合わせた仕組みによっていますから、問題解決の必要に応じて、さいたま市長と主務大臣の権限行使ができることになっています。

 しかし、この仕組みを活かすことの基本は、無理解をなくし、配慮のあり方を吟味して差別解消するための「話し合い」を進めることにあり、その起点は差別事案の「申立て」にあります。

 当事者が差別や困りごとをさいたま市に「申立て」する以外に、差別解消に取り組む手立てはありません。個人情報の保護は市も委員会も徹底して心がけています。ところが、さいたま市の現状はこの申立ての件数が著しく少ないのです。昨年度は僅か4件でした。

 それでも、「コロナ禍における差別・困りごとの事例をお寄せください」と当事者・家族・市民に呼び掛けると、内容の重複するものを除いて259にも上る事例がパッと集まるのです。多くの差別事案が普段は潜在化したままだという問題を明らかにしているのではないでしょうか。

 この点については、当事者に身近なピアとしての立場にある障害当事者団体や、障害のある人の暮らしに係わる日常的な支援に取り組んでいる障害者支援事業所の皆さんに、差別解消のための仕組みを活用する、これまで以上の取り組みが必要不可欠です。

 この課題の追求のために、当事者組織と支援事業者の皆さんには、今回作成した事例集の周知と活用にご協力いただけることを強く期待します。

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