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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

親密圏のまだら模様


 新年早々、オミクロン株の感染が急増しているため、「明けましておめでとうございます」とは言い辛い気持ちです。そこで、「本年は、健康で文化的な最低限度の生活を守り抜きましょう」をご挨拶とします。

 さて、年末年始に気づいた暮らしの情景が二つありました。

 一つは、路上生活者の明らかな増大です。バブル経済の崩壊後に、わが国の景気変動と平行して増減を繰り返したのはホームレスです。Covid-19禍による失業者の急増を背景に、昨年後半から目に見えて増大してきました。

 私の知る埼玉県内の街中では、大きな荷物を抱えて移動しながら、夜分に公園や神社仏閣の境内で毛布とブルーシートなどを布団代わりに活用している人たちが目に留まります。

 東京都内に目を移すと、無料の弁当・食料品の配布活動がときおり実施されていることもあって、これまでのような中高年の男性だけでなく、比較的若い世代を含めたホームレスが増えたように思えます。配布活動の団体の方は、「この間は女性の増加が目立つ」と言います。

 ある民放が、ホームレスに弁当と豚汁を親子で配る様子を流して、この活動に支えられたあるホームレスが仕事に就いたことを感動ポルノとして流していました。現在の社会が構造的にホームレスを産出する問題を抜きに、安易な感動ポルノを垂れ流す「ニュース番組」には心底辟易します。

 私は、子ども食堂や無料弁当配布のボランタリーな活動を批判したいのではありません。そのような活動に身を投じている私の友人・知人は大勢います。しかし、食事等を提供する側にもっぱら光を当てるような報じ方は受け取る側を客体化するだけです。ホームレス問題の本質には迫ろうとしない点で、無責任な報道ではありませんか。

 もう一つは、病院の待合でみた二組の親子の様子です。子どもは二組ともだいたい3歳くらいの女の子でした。

 一組の親子は、病院が待合に置いている絵本と玩具を活用して子どもを遊ばせながら、診察までの待ち時間を持たせようとしていました。

 このお母さんの絵本読みは、場面による抑揚がないわけではないのですが、かなり早口で一冊が30秒ほどで終わりになってしまいます。一つの絵本が終わると別の本を取りに行くよう子どもに指示します。

 この女の子は、絵本の内容に耳を傾けるというよりも、数十秒ごとに絵本を取りに行くところでお母さんに構ってもらうことに興じているようです。

 もう一組の親子は、子どもを膝の上に載せて向かい合い、ジャンケンをして「あっち向いてホイッ」をしていたかと思うと、「あんながたどこさ」と歌いながら手の平を交互に合わせ合っています。

 こちらの女の子は、お母さんのひざの上で「キャッ、キャッ」とはしゃいでいました。

 前者のお母さんは、スマホを取り出して電話をかけました。かけた相手は上の子のようです。家にいるもう一人の下の子の面倒をみるように細かな指示を伝えていました。

「あと30分でスイミングだから、〇〇ちゃんには家でお着替えをしてからスイミングに行くように言ってやって。」

「それまでの時間に、YouTubeと〇〇〇〇ゼミだけは、絶対にさせないで頂戴。あの子はやっている途中で時間が来たらブーブー、プンプン言い出すから。YouTubeと〇〇〇〇ゼミを始めたらすぐに取り上げて止めさせてね」

 スイミング教室、YouTube、タブレット端末による通信教育等による「切れ目のない子育て」です。しかし、親が子どもを育むイメージよりも、「子育てをしてくれる民間市場サービス」をマネジメントしている親と言った方が的確です。

 親子の相互作用に子どもの発達につながる活動は、空洞化しています。子どもの活動そのものは民間市場サービスに丸投げした上で、親は外形的に管理するのです。現在の福祉・介護サービスと自治体による管理のあり方と通底しています。

 子どもを膝にのせて遊ばしていた親子は、親子の相互作用を基軸に子どもの成長と発達を培います。絵本を数十秒単位で交替していた親子では、外部サービスを親がマネジメントしています。後者の親子に、はたして、ケアの領域である親密圏は構成されているのでしょうか。

 雑誌『世界』(岩波書店)の2022年1月号は、「ケア‐人を支え、社会を変える」を特集しました。特集の方針である「誰もが個として尊重されるケアに満ちた社会、それは実現を目指す価値のある社会の姿ではないだろうか?」(91頁)にはまったく異論はないのですが、編まれた各論には随所に納得できない点があります。

 ホームレス問題や子育てのあり方に係わる議論と現実は、大きな落差を伴うまだら模様を呈しています。新自由主義が民衆から現状に替わる社会のあり方について構想する力を剥奪しているとすれば(11月8日ブログ参照)、性とケアの領域である親密圏を基軸に据えた社会制作への展望には、特別の難しさがあると考えます。この点についての考察は必要不可欠です。

路面が凍り付いた九段坂の靖国神社

 Covid-19感染が急速に拡大する中で、厳しい寒さが続いています。ホームレスの増加に象徴されるように、民衆は2年に及ぶ試練に耐えている中で、都知事はコロナとの闘いは新たな「フェーズ」に入ったといい、マスコミは「雪国マウント」という言葉を使います。大切な中身を真剣に伝える気持ちがあるなら、こんなカタカナ用語は決して用いません。自己愛的に気取っているのでしょう。

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