メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

二度目の敗戦記念日

 この一年間のわが国を虚心坦懐に振り返ってみました。独断専行、無為無能、右往左往、伴食宰相、朝令暮改。一言にすると、支離滅裂。

 それでも、一部を除いて無観客となった巨大なスポーツ興行には、歴史的な意義があります。それは、「人類はCovid-19に勝利できず、共存する以外に道はないことを証する」イベントになった点にあります。

 この興行で動員予定の11万人を超える無償ボランティアは、人流の中での感染拡大と、酷暑の中でのマスク着用による熱射病のリスクを負っていました。「おもてなし」の代償にしては余りにも大き過ぎますから、これがある程度は回避できることもまことに喜ばしい。

 しかし、ここに辿り着くまで、現実を正視し科学的専門知に即した対処をすることはなく、不合理な施策を積み上げた挙句の果てに国民全体を泥沼状態に貶めてしまったのです。飲食店と関連業界の皆さんに至っては、生死の瀬戸際まで追い込まれています。

 ひょっとすると、日本は二度目の敗戦記念日を迎えたのではないでしょうか。わが国の中枢には泥沼化した戦争を断ち切る合理的判断のできる者がおらず、責任の所在が不明確なまま敗戦を迎えた1945年8月15日。この中で命を失った日本人・軍属等は310万人に上ります。

 以来、76年の歳月を経て、Covid-19の累計感染者数は81万人を超え、死者数も1万5,000人に迫っています(2021年7月10日現在)。東京商工リサーチによる昨年末の調査によると「飲食店の廃業検討率は32.7%-全業種で唯一3割越え」(東京商工リサーチ第11回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査)であり、飲食関連業を含む従業員と家族の暮らしは疲弊の極みにあるでしょう。

 焼夷弾や原爆が落とされたわけではありません。が、これほど大勢の犠牲者を出すまで、スポーツ興行の中止に向けた合理的判断をわが国の中枢は下すことはできなかったのです。

 ただ、前回の敗戦記念日と異なるのは、東京で大勢の人たちが外出し、買物し、人流が減るどころか増えていることです。この最中にも、Covid-19患者の治療を懸命に行っているたくさんの医療従事者がいますし、クラスター感染を引き起こさないために細心の注意を払いながら命と暮らしを支えている夥しい人数の福祉・介護の支援者がいます。

 つまり、わが国の民衆は今、それぞれの立ち位置や状況に由来する多様な憤怒・諦観・落胆を抱いています。わが国の社会には格差の拡大と亀裂が走り、大衆社会的統合は無惨にも破綻したのです。

 これまでを振り返ってみると、東京2020エンブレム(シンボルマーク)と新国立競技場のデザインの選考をめぐる見苦しい混乱に始まって、新国立競技場の建設現場で横行した労働基準法違反や過労自殺などの多大な犠牲がありました。

 このスポーツ興行で、「ジェンダー平等/多様性と調和」をテーマに「ダイバーシティ&インクルージョン」「持続可能性」「アクセシビリティ」と謳われる理念は、イベント資本主義の露払いです(https://olympics.com/tokyo-2020/ja/unity-in-diversity)。

 本間龍さんによると、「東京五輪は招致の際、約7400億円で開催できると言われていたが、現在の組織委発表による総コストは1兆6400億円、その二倍以上である。さらに国と東京都は1兆8000億円の税金を五輪に使っており」、この五輪に費やす金額の総額は3兆5000億円という巨費で、この大半が税金だというのです(本間龍「祝賀資本主義のグロテスクな象徴-東京五輪の総括」、雑誌『世界』2021年6月号、91‐92頁、岩波書店)。

 そして、東京都オリンピック・パラリンピック事務局が明らかにしている大会開催による経済波及効果は、直接的効果としての需要増加額の14兆円、大会後のレガシーによる需要増加額の12兆円、生産誘発額は東京の20兆円、全国の32兆円となっています(https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/taikaijyunbi/torikumi/keizaihakyuukouka/index.html)。

 これらはまさに「捕らぬ狸の皮算用」。観客のチケット収入とインバウンド需要は水泡と化し、巨額の借金がわが国にのしかかることになります。オリンピックの経済波及効果の幻想は、幻滅に終わりました。

 この一年に私たちが目の当たりにした支離滅裂は、多くの民衆の取り返しのつかない痛みとともに、巨大なスポーツ興行とわが国の真実の姿を露わにし、正視する絶好の機会となりました。

閑散とする川越市のゴルフ会場

 スポーツ金融やっとる抜歯・機関車トーマス・金次郎ですわ。日本でのニックネームは「ぼったくり男爵」ですけど、このネーミングはほんま言い得て妙でんな。せやけど、1984年ロサンゼルスの興行以来、商業五輪に舵を切ったことはとうに知れたことでっせ。東京や日本の皆さんも、ボロクチやと踏んだんとちゃいまんのか。ただ、わしとは同床異夢やっただけですわ。