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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

第6期計画策定を終えて

 先日の埼玉県障害者施策推進協議会で、第6期埼玉県障害者支援計画の策定を終えました。今年度は、Covid-19の問題があり、施策の内容と協議の進め方にはこれまでにない注意が求められました。

 最後の協議会は広い会場を用意し、委員の間に飛沫防止のためのパーテーションを置いた対面式の議論となりました。数多くの新規事業が盛り込まれ、360本ものパブリックコメントへの適切な対応をした上で、滞りなくすべての議事が終了し、心底やれやれです。

 障害者施策に関する計画策定は、児童と高齢者の領域よりはるかに施策の範囲が広い上に、第5期計画からは子ども期からの「切れ目のない支援」を考慮する必要から、全ライフステージにまたがる内容を担保するようになりました。

 もとより、それぞれの障害特性を踏まえた考慮が必要であり、障害領域のすべての領域に精通する専門家はいないといっていいでしょう。夥しい数の事業は複数の担当部署に分かれていますから、計画策定を担当する部署の職員は、庁内の調整にも汗をかかなければなりません。

 このように障害領域の計画策定には、一筋縄ではいかない特別の難しさがあります。

 そこで、今回の計画策定の終了を機に、長年にわたって自治体の計画策定とモニタリングの仕事をしてきた経験から、協議会や委員会をめぐる課題について若干指摘しておきたいと思います。

 1995年に「障害者プラン―ノーマライゼーション7か年戦略」と「市町村障害者計画策定指針」(総内第77号)が出てきた当時、自治体が当事者市民と共に障害者施策を作り上げていく営みにはさまざまな困難がありました。

 市町村はそれまで国の施策の下請けでしたから、自治に立脚して地域にふさわしい施策を形成するための視点・能力が自治体にはじめて真正面から問われるようになったといっていいでしょう。当事者団体等は、従来のように要望の声を出すだけでなく、施策形成における当事者責任を負うことも求められるようになりました。

 自分たちで計画策定を進めることに戸惑う市町村が多かった当初の段階では、よく政府のお役人が「消防署の人や駐在所のお巡りさん、小中学校の校長先生などにも参加してもらうなど、地域の人たちの手作りによって地域の実情にふさわしい計画を策定しましょう」というような内容を各地で発言していたことを記憶しています。

 「消防車や駐在所」にはもとより何のリアリティもありませんが、地域住民の直接的な参画によって、地域の実情を反映した施策を形成するというスピリットに間違いはありません。問題は、小さな市町村を含めて広範多岐にわたる障害者施策の形成をどのように進めるのかです。

 自治体によっては、1995年からはじまった地方分権型施策形成への転換について、いまだに基本的な問題を引きずったままのところもあります。つまり、自治体で計画を策定していますという形はあるとしても、コンサルに丸投げして体裁を整え、中味はただ国の指針にもとづいて唯々諾々と算盤をはじいただけだという計画策定です。

 コンサルには、形式的な計画策定を繰り返す自治体のための計画書の雛型が用意されているはずです。この営業は、きっと笑いが止まらないでしょう。

 しかし、埼玉県やさいたま市等の、私が計画策定に関与したところでは、当事者市民の参画と討議にもとづく施策形成が行われるようになりました。市民の参画と民主主義的な討議が深まった度合いに応じて、施策形成への自治体職員の参画と協力も着実に進んでいったと理解しています。

 自治体での施策形成の充実にはすでにいくつかの教訓が明らかになっています。

 まず、私が関与した自治体では、広範多岐にわたる施策の課題をいくつかのワーキング・グループに分けて議論するプロセスを必ず設けています。このワーキング・グループでの議論を充実していかないと、実質的な協議を深めることはできません。

 次に、参画する委員には団体や業界の代表にふさわしい発言を担保してもらうことです。この点には、今日でも大きな課題が残っています。

 当事者団体や事業者組織の代表であるためには、協議会やワーキング・グループの討議を通じて施策形成をしていくために必要十分な、地域の実情と意見を不断に集約して会議に臨むことが要件となります。

 当事者団体の中には、時代錯誤の年功序列を引きずったままのところがあります。このような団体の代表が委員となっても、現在の地域と若年世代の実情と声に精通していないのであれば、話が長いだけで参画の内実はなく、施策形成には役立たずです。

 事業者団体から出てくる委員も同様です。支援事業者の団体の委員には、本来であれば支援に係わる専門的知見に基づく施策の提案が期待されますが、はっきりいって、これまでところ力不足の感は否めません。

 委員の中には、委員として協議会や委員会に出てくることによって、行政に対する影響力を強めようという魂胆を抱いていたり、自身の存在理由を業界で誇示しようとするところに固執している人さえいます。このような人は、障害者施策推進協議会や自立支援協議会の委員としてはまったく不適格です。

 地域の実情や当事者のニーズに精通し、施策形成のための協議へ参画することに委員の社会的責任があります。このような社会的責任を担える自覚と資質を委員選出のミニマムにしていくことが必要です。

 近代社会の後期に先進国の多くが福祉国家であった時代が去りました。21世紀の「第二の近代」にふさわしい討議と民主主義にもとづく施策形成が重要な課題になっています。

 篠原一さんの指摘を参考にすると次のようになるでしょう(篠原一著『市民の政治学』、2004年、岩波新書)。

 当事者市民の実情とニーズを反映していく民主主義には二つの回路があり、その一つは伝統的な代議制デモクラシーであり、もう一つは、市民社会を中心にした民衆の参画と討議のデモクラシーです(いわゆる「ツー・トラック制」)。

 後者の民衆の参画と討議にもとづくデモクラシーには、民衆の実情やニーズへのヴィヴィッドな対応が期待できるため、広範多岐にわたる課題から構成される障害者施策の形成立案には必要不可欠な回路です。

 そして、代議制と参画・討議デモクラシーが民衆の実情とニーズをより施策に反映できるようになるための相乗効果を生むような位置づけになっていくことが期待されます。

 しかし、計画策定に当事者市民の参画が進むようになって地方議会の議論が活発になったという話は、残念ながら、聞いたことはまったくありません。地方議会議員の中にこのような課題意識を持っている人はごく少数です。

 現代の当事者や事業者の計画策定に係わる委員には、民衆の参画と討議のデモクラシーの担い手にふさわしい資質と能力が求められます。自治体行政は選出する委員を各団体に丸投げするのではなく、障害当事者団体や事業者団体もこのような課題の重要性を話し合った上で、委員の選出ができるようになることがそろそろ必要なのではないでしょうか。

群れるハシボソガラス

 車道にクルミを落として自動車に挽かせて割り、それを食べるカラスが4年ぶりに秋田で見つかったそうです。4年前から姿を見かけなくなったため、死んだものと考えられていた個体が、再発見されたと報じられています。これだけ頭のいいカラスですから、群れているときには、カラス界の重要な課題について、話し合っているのかも知れません。