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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

明けまして浦島太郎

 皆さん明けましておめでとうございます。

初春の梅の花芽

 暮からお正月にかけて、さまざまに気になるニュースがありました。大阪府寝屋川市で発生した監禁致死事件、沖縄米軍ヘリ不時着事件、憲法改正をめぐる議論、秋田県のツキノワグマ大量捕殺…。日本における政治・経済や家族・地域社会のあり方は、私が自覚している以上に、大きな変貌を遂げつつあるのではないかと感じます。

 寝屋川市の事件については、ある新聞社から取材を受けました。新聞社から寄せられる情報量が数時間ごとに更新され増えていくにつれて、ますます謎は深まるばかりです。

 伝え聞くところによると、小学校6年生の時に発症し、それ以来不登校、16歳辺りから2畳部屋に監禁されるようになって、精神保健福祉手帳は取得していないが障害基礎年金は受給していたと言います。すると、お亡くなりになるまでの間には、必ず医師の診察・診断があったはずです。

 義務教育諸学校の先生方は訪問による面接をしたことがあるのか、どのような考えの運びから両親の徹底した監禁隔離がはじまったのか、地域の保健所によるアウトリーチは何もなかったのか、診察した医師は何らかの異常な事態への気づきや疑いを持たなかったのか、外部からの何らかの介入があったのか、最悪の事態を防止する手立ては本当に何もなかったのか?

 この事件は、刑事事件としての捜査だけでなく、この種の虐待をいかにすれば防止できるのかという観点から、大阪府と寝屋川市、寝屋川市教育委員会等が、総力を挙げて検証すべきだと考えます。

 お正月だというのに、この事件を前にうつうつとした気持ちに陥っていたところ、皇居で開かれた一般参賀のニュースに接しました。

 先の大戦による被害の大きな国と地域を訪問され、被災地に心を砕き、核兵器廃絶を願っておられる天皇皇后両陛下のお姿に感銘を受けてきました。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、主権の存する日本国民の総意に基く」(日本国憲法第1条)のあり方を熟慮されてきたのだと思います。

 日本国憲法を意識的に護り抜き、日本国憲法にもとづく天皇のあり方をひた向きなまでに追求し続けてこられたご努力に異論のある国民はいないと言っても過言ではないでしょう。天皇皇后両陛下の姿勢とお努めから改めて学ぶべき日本人は、山のようにいると思います。

 さて、この年末にガスコンロとテレビを買い換えました。これらはともに、ミレニアム以来18年間使い続けてきた代物です。さすがに、長年の経年変化による部品劣化と性能低下は著しく、新調することになりました。これまで使い続けてきたガスコンロとテレビには、本当に「お疲れ様」。

 ガスコンロやシステムキッチンの購入に多大な出費をしても、作る料理が美味しくなければ意味はありません。ある程度の基本機能が充実してさえいれば、食材や調味料にお金をかけた方がいいと考えてきました。テレビは、注目するコンテンツがほとんどないので、ブラウン管テレビに地上デジタルのチューナーをつけた状態でした。

 買い換えてみると、現代の新製品に備わる機能のあれこれに、もうびっくり。以下は、時代遅れの浦島太郎の戯言ですから、時代についてきた方は「こんな化石まがいの奴がいるんだ」程度に読み飛ばしてください(笑)

 まず、ガスコンロ。焼魚にトースト、鍋での炊飯が自動です。これらの自動機能を正月に全部試してみましたが、まことに塩梅のいい出来上がりです。しかも、きちんと自動消火までしてくれますから、下手な人間が調理するより、よほど優れています。

 今のところ自動調理の機能は限られていますが、いずれここに人工知能が加わって、あらゆる料理が自動で調理できるガスコンロやオーブンレンジはすぐに製品化されるでしょう。火加減や焼き加減等の仕上げ方を含めた調理の方法に、もはや人間が煩う時代ではなくなるのです。

 次に、テレビ。画質のいいのは当然ですが、重量43.4kgで消費電力139Wだったブラウン管テレビが、重量4.2kgと1/10以下に、消費電力が40Wと1/3以下にそれぞれ軽薄化している点にも感激。録画したものの再生にコマーシャルをすっ飛ばしてくれると「へぇーっ!」、3Tの外付けハードディスクにつなぐと録画もほぼ無制限。

 あっという間に時は流れ、民生品を構成する科学技術の基盤が抜本的な転換をした印象を持たざるを得ません。

 平成12年(2000年)に社会福祉法、改正児童福祉法及び介護保険法が施行されて以来、18年が経とうとしています。くしくも、わが家の古びたガスコンロやテレビの使用年数と同じです。

 ガスコンロとテレビを新調して、いかに私自身が「浦島太郎状態」であったかを思い知ったように、社会福祉基礎構造改革のもたらした社会保障・社会福祉をめぐる抜本的な変化に対して、未だ「浦島太郎」的な現場がありはしないかと、率直に言って、気になって仕方がありません。

 この月末に、日本知的障害者福祉協会の大会で、この40年余りの社会福祉をめぐる法制度・実施体制・理念の複雑な変化について講演することになりました。あれこれを批判することよりも、私たちは何を課題として、何をなすべきなのかを明らかにすることを目的にしています。

 このような講演テーマでお話しすることの必要を自覚し、しかし、このようなテーマでお話しする最初で最後の貴重な機会として、準備しています。

 政治・経済・社会というマクロな次元の大転換と共に、家族と地域社会の歴史的転換が続いています。不毛な権力闘争やポピュリズムに抗して、共生社会の形成に向けた課題認識の共有を図ることに力を注ぎたいと願っています。