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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

感染症ムラ

 用向きがあって福島県に足を運んだところ、現地のテレビ報道では、気象情報の中で「県内各地の放射線量」を伝えていました。

 報道される数値の地域偏在に注意を向けると、10年前に発生した福島第一原発の重大事故の痕跡を明らかに見て取ることができます。

 この10年間にあった民衆の犠牲と困難は甚大である一方で、「人災」だと指摘されてきたこの事故に係わる責任の所在が明確にされた感は私にはありません。当時の流行り言葉になった「原子力ムラ」の構造的問題の克服に向けた社会的手立てが十分に講じられた実態が見えてこないからです。

 このような福島第一原発の事故に係わる忌まわしい感想が胸をよぎるとともに、Covid-19にかかわる構造的問題との共通性に深い疑念を抱きました。「感染症ムラ」の無責任体質は「原子力ムラ」と同様ではないかと。

 福祉・介護関係者の多くは、支援現場における感染防止対策には、職員と利用者の全数に対するPCR検査の定期的な実施しかないことを、一年前から声に上げてきたと受け止めています。

 ところが、未だにこの点の前進は殆どないと言っていいでしょう(1月25日ブログ参照)。

 埼玉県は1月15日、高齢者施設のクラスター感染の頻発化に対応して、職員へのPCR検査の実施を発表しました(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0603/shisetsu_pcr.html)。埼玉県の発表したPCR検査の実施対象地域マップは次の通りです(先のURLより引用)。

高齢者施設職員PCR検査対象地域マップ

 このマップで検査の実施対象となる前提条件は、次の通りです。

 1.人口10万人あたり200人以上かつ累計300人以上の感染者が確認されている市に所在すること。
 2.高齢者入所施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、軽費老人ホーム、養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)に限定し、本体施設に併設する訪問介護や通所介護等の事業所は対象外とすること。

 この前提条件の内容は、厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が出した事務連絡「高齢者施設等への検査の再徹底等について(要請)」(令和2年12 月25 日)や「医療機関・高齢者施設等における無症状者に対する検査について(要請)」(令和3年1月22日)にある「高齢者施設等の入所者や従事者に対する検査やクラスターが発生している地域における感染が生じやすい場所・集団等に対する検査」を実施するという方針を踏襲したものです。

 マップ上で、対象となる所沢市、富士見市、新座市、朝霞市に囲まれた三芳町と志木市は対象外となっています。埼玉県は、斜線部の政令市と中核市を除くと、市町村ごとの地域内で生活ニーズのすべてを満たすことが難しく、近隣市への移動を余儀なくされる特性を持ちますから、感染防止の観点から三芳町や志木市・蕨市を除外する合理的根拠がどこにあるのかさっぱり理解できません。

 PCR検査を入所施設の職員に限定して、訪問介護や通所介護等の事業所職員には実施しない点は更にまったく分からない。訪問介護と通所介護のサービスでも、感染リスクの高い食事・排泄・入浴の三大介護場面が避けられないというのに、除外するというのはどうしてなのでしょう。

 さらに、クラスター感染が深刻化している障害者支援施設に対しても、今のところ対象外です。そこで、福祉関係者がPCR検査の抜本的な対象拡大を改めて訴えるのは当然です(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFB254N60V20C21A1000000/)。

 職場や社会福祉施設で感染者が発生し、クラスター感染を恐れる関係者がPCR検査を受けようとしても、保健所の規定する「濃厚接触者」に当てはまらない限り検査の対象外にされてしまう実態は、この一年間、多くの自治体で何も改善されませんでした。

 それでも、全国で感染のピーク時に必要なPCR検査のキャパシティはすでに整っているとすでに発表されています(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020080701048&g=soc)。
 この点もさっぱり理解できない。

 このようにみてくると、感染防止とPCR検査をめぐる理解しがたい事態がずっと続いていることが分かります。広く国民が理解できない施策がどうして一年間も続くのでしょうか。感染症対策がブラックボックスのようで外から見えてこないのはどうしてなのか?

 この疑問を解き明かしてくれる報道を見つけました。NPO法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌弘さんによる「資金と情報を独占する『感染症ムラ』‐新型コロナウイルスと臨床研究」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020072200692&g=soc)です。

 ここでは、原子力ムラと同様の構造的問題が指摘されており、いささか身の毛のよだつ思いが抑えられません。国民の命と健康をよそ目に、ムラの利権に寄生する「知識人」がいるのでしょう。

キンメモドキの群れ―アクアマリンふくしま

 10年前の東日本大震災で、水族館の命綱である電源が途絶えて大きな被害を被ったアクアマリンふくしま。復興した姿をどうしても見たくて立ち寄りました。キンメモドキが群れを作っていました。この魚の群れる姿はとても美しい。利権と保身のために群れて寄生する人間のムラは見苦しい。

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