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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

布団乾燥機を買おうとしたら

 この1週間、発熱して寝込みました。布団の中で大汗をかいたため、布団乾燥機をかけようとすると、わが家の乾燥機を娘が持って行ったことに気づきました。そこで、新しく買うことにしたのです。

 これまで使っていたのは、布団大の乾燥マット(袋)に温風の出てくるホースを差し込むタイプの乾燥機です。20年ほど前の商品でした。

 さまざまなメディアに溢れる布団乾燥機の宣伝に目を通し、最近のトレンドを確かめてみました。すると、乾燥マットなしで、「ふわふわっ」「ダニ退治OK」、「ホースを布団の中に入れるだけ」「マットを片付けする手間なしでラクラク」という感じです。

 これらの宣伝文句が本当ならいいのですが、私には深い疑いが湧いてきました。

 娘の就学前の時代、アトピー性皮膚炎があったため、ハウスダストとダニの除去は毎日の家事の至上命題でした。寝具については、乾燥マットの上に布団、毛布、タオルケットをどのように重ねると全体に熱がうまく伝わるかを考えて、来る日も来る日も、毎朝、布団乾燥機を使ってきました。

 布団乾燥機の使用に「35年のキャリア」があると自負する私には、現代の布団乾燥機の宣伝文句をにわかには信用することができません。

 さっそく、家電量販店の布団乾燥機売り場で、現物を確かめてみることにしました。家電量販店の布団乾燥機の担当者は、「パワーが違います」「ノズルを差し込むだけでダニ退治しようとすると、温風量とノズルの形状等が大切です」と言って、しきりに高額商品を「おすすめ」してきます。

 そこで、布団乾燥機歴35年のキャリアにもとづき、数々の質問をぶつけてみました。

 温風をまんべんなく全体に行き届かせるための乾燥マット(袋)がなければ、

「敷布団の上に毛布やタオルケットだけを重ねる場合は乾燥できないでしょ?」
「おっしゃるとおりです」
「厚みのある掛布団を重ねるとしても、材質によっては熱が全体に回らないのでは?」
「そうです」
「だから、ダニ退治の効果にはムラが出やすいのです」
「乾燥マットのない分を強力な温風でカバーするのだから、電力消費も大きい?」
「ええっ」
「結論からいうと、乾燥マットの出し入れさえいとわなければ、布団乾燥とダニ退治の効果、消費電力の小ささ、商品のお値段の安さと、3拍子揃って乾燥マットタイプが間違いありません」

 おいおいっ、最初のセールストークとはずいぶん違うことを言うじゃないか。まあっ、店員には売り上げのノルマもあるでしょうから、目くじらは立てません。それよりも、メーカーの商品開発のあり方には、疑問を通りこして、憤りが込み上げてきます。

 結局、売り場商品の中では一番お値段が安く、布団乾燥機をわが国で最初に商品化したM電機製の乾燥マット方式のものを購入しました。予想通り、20年前のものと性能も使い勝手も全く同じでした。簡単に言えば、布団乾燥機は20年前には完成した商品なのでしょう。

 「公共放送」NHKが先頭に立って開発している4K・8Kのテレビについても、疑問だらけです。インターネット上の情報では、視聴者のニーズが高いわけではなく、メーカーもテレビ局も様子見のまま、半分腰の引けた状態が続いているという内容が最大公約数のようです。

 実際、現在市販されている4Kテレビには、4K放送が始まったときに必要不可欠なチューナーがついていないというのです。だったら、4Kテレビといわずに「4Kディスプレイ」と言うべきではありませんか。

 先日のNHKの放送で、有名な動物写真家に4K・8Kの映像表現についての魅力を語らせていました。「猫の表情」が「髭1本、耳の先の毛1本の動き」から伝わってくるそうです。しかし、動物写真家には重要かもしれませんが、私には何の関係もありません。自分の日常生活との大きなギャップを感じただけです。

 今の大学生と話をしていると、いかにテレビを見なくなっているのかがよく分かります。私自身も積極的にテレビを見る機会は、日常生活から消失しました。テレビのコンテンツに期待する視聴者が縮小しつつあるのに、4K・8Kの超細密映像の魅力から高額商品のテレビにもっていこうとする筋書きは無理がありすぎて、戦略は破たんしています。

 今や、新作映画でさえ「映画館でみるとは限らない」時代で、ネット配信サービスを利用してスマホで観てしまう人が増えています。この新たな視聴行動は、映画館の大画面で観るものとは異なる映画の作り込みに進展するかもしれないという論者さえいるのです。

 このような事実も、4K・8Kの超細密映像に訴求力があるとはいえない傍証です。

 最近のカメラにしても、どんどん性能は良くなっていきますが、新商品に目を向けることはとんとなくなりました。一眼レフの類の多くの商品は、私にとってはあらゆる意味で過剰スペックになっているからです。

 もし、最新のミラーレス一眼の性能の恩恵に授かろうとすれば、性能のいい専用レンズ、画素数の大きさに対応できる高性能パソコン、正確な色表現性能を持つ液晶ディスプレイ、写真印刷用の高性能プリンター、画像ソフト等々、これまで使用してきた写真関連機材のすべてを一新する必要があるでしょう。

 基本のL版と、たまに少し大きなキャビネサイズにするのは、長年行きつけのフジカラープリントがいい。年賀状に張り付ける画像やA4等にするのは普通のプリンターで十分。それでも、フィルムカメラの時代には考えられないくらい高画質の写真が出来上がるようになりました。

 だから、新たな高機能カメラには、「君はものすごい性能だね、ご活躍を祈っています!」程度の挨拶はするとしても、自分がユーザーになる気持ちはまったくありません。

 先ほどの新作映画のスマホによる視聴と同じように、若者の多くはスマホで写真撮影を済ませて十分だと感じているし、カメラを購入するにしても、大きく重いカメラボディに交換レンズというスタイルは、すでに大衆的なニーズではなくなっているでしょう。

 このようにみてくると、日本のメーカーが開発した新しい製品に、多くの人が目を輝かせては購入を重ねてきたかつての高度大衆消費様式は、とっくに終焉していることが分かります。テレビやカメラ等の映像関連商品の多くは、4年に一度のオリンピックを新商品の売り込む機会としてきました。

 2020年は、史上初の「取らぬ狸の皮算用オリパラ」になるのではないでしょうか。

「正しい」(あくまでも個人的見解です)布団乾燥機

 それにしても、新製品の正確な情報を入手することはまことに難しい時代になりました。消費者庁や国民生活センターの情報は、私のニーズとの関係においては不十分極まりありません。かつて『暮らしの手帖』のやっていた「製品テスト」が懐かしい。一雑誌の手に負えるテストじゃないから、本来であれば、生活協同組合辺りが引き受けるべき社会的な役割ではないかと…。