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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、日本障害者虐待防止研究研修センター代表。
長年、埼玉大学教育学部で教鞭を勤めた。さいたま市社会福祉審議会会長や障害者施策推進協議会会長等を務めた経験を持つ。埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)、『障害者虐待-その理解と防止のために』『地域共生ホーム』(いずれも中央法規)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

都議選を垣間見て

 東京都議選投票日直前の土曜日に都内を歩いていると、候補者の名前を連呼する声が街中に響いていました。ときおり混ざる政治的なポリシーは薄っぺらな言葉ばかりで、とても政策内容を表すものではありません。

移ろいの時節にふさわしい紫陽花

 小学校6年生の時に公園で遊んでいたとき、確か総選挙の最終日だったでしょうか、「候補者名の連呼」を続けるだけの選挙戦を目の当たりにして、「小学校の生徒会の演説の方がよほど中身がある」と感じた体験がよみがえってきます。

 「本日は、候補者本人が最後のお願いに参っております」と叫び、公園で遊んでいる子どもたちに向かっては、「皆さん、お父さんとお母さんには『〇〇(候補者名)をよろしく』と言うといてな!!」とつけ加えます。子ども心に「アホくさ~」と呆れかえりました。

 それでも、私が小学生の頃は、公民館などに各候補者がそろって政治理念と政策方針を有権者に訴える演説会が、選挙制度の一環として開催されていました。母親にくっついて、聞きに行った記憶が残っています。

 いつのまにか、有権者が候補者すべての声を直接聞いて比較吟味するこのような機会は廃止され、必ずしも当てにならないマスコミを通じた断片的な間接情報が主となりました。

 それから数十年が経って、何かが変わったのだろうかとの疑問を禁じ得ません。「最後のお願いにやってまいりました」とまるで年度末総決算バザールに使うような、チープな宣伝文句を並べたて、あとはただただ候補者名の連呼が続くのです。このような選挙戦を許し続けてきた有権者にも、深刻な問題があるのでしょう。

 その上、障害者差別解消法が施行された現在でも、視覚障害のある人に対する選挙公報には重大な人権侵害が放置されています。Webサイト上の選挙公報は、PDFファイルで掲載されていますから、視覚障害のある人たちがスクリーンリーダーというソフトを用いて、言語情報を音声情報に変換することができないのです。

 PDFにしておくことによって、勝手に書き換えられてしまうことがないようにしているとの選挙管理委員会の木っ端役人の言い訳が聞こえてきそうですね。そんな問題は、いくらでも技術的な解決策があります。

 この問題に応えたのは、ヤフーの特設サイトでした。

障害のある人の権利擁護を掲げる政治家はちゃんといますが、選挙権の行使に係る合理的配慮の徹底について、政治的立場を越えた協働によって実現しようとした政治家は、果たしてどれほどいたのでしょうか?

 障害者虐待防止法と障害者差別解消法は、力の優位性をもつ人が暴力の行使やネグレクトをしてはならず、障害を理由とする不当な差別的取り扱いと合理的配慮の欠如をしてはならないことを定めています。数の力を不当に行使するのではなく、討議を尽くして政策を煮詰めていくような政治文化を実現することができなければ、わが国の社会から虐待や差別を根絶することは不可能だと考えます。

 さて、世の中には頑なさを守り続けることに命が宿るものもあります。靖国神社に近い九段南に店を構えるゴンドラのパウンドケーキはその一つです。

ゴンドラのパウンドケーキ

 「おいしゅうございました」の台詞で有名な料理ジャーナリストの岸朝子さんの『東京五つ星の手みやげ』(東京書籍、2004年)にも掲載される(138-139頁)逸品です。初代と二代目がそろって現代の名工に選ばれた店のモットーは、「知られているケーキをよりおいしく作ること」です。

アップルパイ

 一口ほお張るだけでも十分幸せを感じるケーキですが、ここはゴンドラのお店にぜひ足を運んでいただきたいと思います。小麦粉に砂糖、卵、バターを加えて「よりおいしく作る」ことの基本が、お店の中の香りに溢れているのです。香しい洋菓子の香りに包まれているだけで幸せを感じることのできるお店です。

 エッセイストの三宅菊子さんは、ゴンドラのパウンドケーキに寄せた『我が敬愛のパウンドケーキ』の中で、次のように綴っています。

 「秘伝というのは結局、頑固なほどに『ちゃんとした』作り方をするという、つまり配合や火の具合以前の、人生観なのだ。と、このパウンドを食べるたび、『いい仕事をして生きて行くこと』の意味を教えられるような気がする。」

 選挙のたびに、「いい政治をして生きて行くこと」の意味を政治家から教えられるような気分になってみたい気がします。