メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

小集団の変化(2)

 前回の続きですが、少々理屈っぽくなってきました。しかし、読者の方々のなかには、対人援助のプロが多く、援助の根拠を説明する機会も多いでしょうから、まとめて論述しておきたいと思います。そして、いずれ具体例をご紹介する際にはこの記事とリンクします。

 さて、小集団が変化する理由の第3は、「成員の分離・加入」による変動です。
 一つには、成員は、集団で安定して余剰のエネルギーを生じてくると、当然その発達過程として新しい体験である次の集団を求めるようになる場合です(外的統合)。これが「安定飽和」です。
 二つには、その発達変化による要求の質量の増大が、いつかこの集団の充足力の限界を越えてしまい、他の集団にその充足を求めるようになる場合です。これが「要求飽和」です。
 また、三つには、その主体的統合が、現在の集団より他の集団においてより容易であれば、その集団へと移動しようとする場合です。これが「主体的統合の難易差」です。

 第4は、移動や分離をもたらす「内外の規制要因」です。たとえば、死亡や社会的な規制があります。なお、一般にこの移動や分離は、成員のなかでも、リーダーには困難であり、フォロワーには容易だと言えます。

 また、成員の加入は、新成員が前の所属集団から移動してきたり、出生したりすることによって生じます。この分離・加入は、成員相互の認知受容のし直しを求めますから、共有領域や包容領域の内容も、各成員の主体的統合の仕方も、ともに変化します。もっとも通常は、この分離・加入によって一時的に不安定になりますが、やがては再び安定化の過程をとっていきます。

 第5は、小集団外の「外力」による変動です。外力は、成員の個人内領域、主体的統合、包容領域のいずれかに対して加わることもあれば、全てに対して同時に加わることもあります。集団間の闘争などは、全面的に外力が加わってくる例です。

 そして、好むと好まざるにかかわらず、外力によって小集団の構成要素が変化し、それが全体におよんでいきます。また、全体が同時に変化したりもします。しかし、これらの変動が各自の認知受容力と、統合力の限界を超えてしまうと、各自は自己防衛の内的統合に集中するため、相互に受容も支援もなしえずに孤立化します。

 こうなると、小集団は、情緒的つながりであるベーシック・グループを失い、相互に必要最小限の簡素化された規制のみのワーク・グループが形骸化して残るか、あるいは集団自体が解体することになります。

 このとき、集団の変動における葛藤や解体が、ある者にしわよせられ、これを犠牲(スケープゴート、scapegoat)にすることによって支えられている場合があります。いわば、犠牲者を安全弁として、からくも集団が支えられるわけです。

 虐待事例の場合、被虐待者が犠牲者であるという構図以外ない、というのなら分かりやすいのですが、かつての犠牲者が今の虐待者だったり、かつての虐待者が今の犠牲者だったりしますから、しっかりと物語を見立てないといけません。

「身代わりはボクでなくても・・・」
「気の毒なスケープゴート君・・・」

【前の記事】

小集団の変化(1)

【次の記事】

月がきれいですね