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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

窮鼠猫を噛む

 8月23日付読売新聞朝刊1面の「虐待児保護所 けが続発」という記事が目に留まりました。同社の行った調査の結果、全国140の一時保護所で、2016年から2019年の4年間に、子ども同士のけんかや性的虐待が200件、自傷行為が173件、自殺未遂が6件確認され、無断外出は1,162件に上ったといいます。

 コロナ禍の影響か否か分かりませんが、児童虐待の急増による大都市部を中心とした一時保護所の慢性的な定員超過や、子どもの施設での生活への不安や不満、ストレスが募っていることが背景にあるようです。

 確かに、荒れた非行児もいますし、職員数の不足や経験不足の職員も少なからずいますから、結果的に厳しく管理することになり、子どもたちは荒れるのかもしれません。そして、子どもたちが荒れれば一層管理も厳しくなって、ここに悪循環が生じます。

 また、この記事には、東京都の第三者評価の指摘も紹介されているのですが、思わず溜息をつきたくなります。子ども同士の会話や目を合わせることも禁止、女児の通行時に男子は後を向かされるなど男女の接触は厳禁、食事中の私語は禁止で卓上のお茶の追加にも逐一職員の許可を得る、ルールを破った子どもはグラウンドを何周も走らせたり、辞書の書写しをさせたりする、などです。これでは刑事施設より管理が厳しく、虐待さえ疑われます。入所者の多くは被虐待児なのにです。

 一方、新型コロナウィルスに罹患した人々に対する誹謗中傷も目に余ります。直近では、部活動などで集団感染が相次ぎ、ネット上で、「日本から出て行け」とか「学校をつぶせ」と罵られ、個人が特定される写真が拡散するなど、行き過ぎた事例は後を絶ちません。罹患者が心の専門家の助けを必要とするほど追い込まれることも多々あるといいますから、明らかに異常です。

 しかし私が恐れるのは、一時保護所で荒れる子どもも、対応に窮する職員も、感染症対策に追われる教職員も、コロナ対策に落ち度があるとみなした人を過度に攻撃する人も、皆「窮鼠猫を噛む」状態にあると思えることです。

 自己肯定感が低下した人々が増えれば、他者を管理(支配)したり攻撃したりする人もまた増えてしまうのではないでしょうか。弱者が自分より弱い者に辛くあたる、そんな流れが目に浮かびます。ですから、喫緊の課題は、人々に浸透した不安や不満、ストレスの低減であり、国をあげて取り組む必要があると思います。

 そこで頼りたいのは政治家ですが、こちらもどうも芳しくありません。憲法第53条は、衆参いずれか4分の1以上の議員から臨時国会の召集の要求があった場合、「内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めています。しかし、2015年、2017年、そして今年の7月末と、どうしたわけか政権は野党の召集要求に応じません。いわば憲法違反が常態的に繰り返されているわけです。

 「嗚呼、なんということだ!」、本当に天を仰ぎたくなります。

「窮猫飼い主を襲う!」
「因果はめぐるのネ・・・」

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