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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

ストランドビーストを見て思う


 国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)は、毎年3月に世界幸福度報告書(World Happiness Report)を発表します。2023年の国別ランキングで、日本は137カ国中47位となりました。前年の54位からランクアップです。

 確かに喜ばしいのですが、「先進国のなかで一番不幸な国」だと言われもしますから、手放しでは喜べません。ところでこの報告では、人々の主観的幸福を測るのに、「生活評価」と「感情」の2つの指標を用いています。

 「生活評価」は11段階の自己評価で、その国の平均値によってランキングされます。一方、「感情」については、肯定的感情(幸せや笑顔や喜びなど)と否定的感情(心配や悲しみや怒りなど)の両方を測定しています。

 そして、肯定的感情の体験が多かったり、否定的感情の体験が少なかったりすると、幸福度は高くなるという仕組みです。日本はよく、肯定的感情の体験は少ないが否定的感情の体験もまた少ない、と言われます。

 何だか「可もなく不可もなし」で少し複雑ですが、私は、こうして測定される「感情」は「自己肯定感」につながるとみて注目しています。自己肯定感が低いほど虐待者への道を歩みやすく、高いほど歩みにくくなると考えるからです。

 そのため、肯定的感情の体験が少ないというのは気になっていて、何とか増やせないか思案してきましたが、良いアイデアはまったく浮かびませんでした。ところが最近、ある彫刻家の作品を見て、大いに触発を受けました。

ストランドビースト

 それは、オランダのテオ・ヤンセン氏の「ストランドビースト」です。千葉県公式PRチャンネルでは、風を受けて生き物のように動く巨大な作品たちを紹介していて、視聴することができます。

 氏は、大学で物理学を専攻していましたが、画家に転向した後、プラスチックのチューブで生物の「細胞」のような部品を作り、それらを組み合わせて「ストランドビースト」を作りはじめました。

 むろん作品たちが関節を滑らかに動かして砂浜を移動する様子は、生命感をさえ感じさせてインパクトは大です。しかし、私が触発されたのは、氏がこうした作品を作ることになった動機にあります。

 オランダは、国土の4分の1が海面より低い国です。そして、最近では気候変動の影響などにより、今世紀末には海水面が1~3メートル上昇する可能性があるとさえ言われ、堤防等の治水対策をすることが喫緊の課題となっています。

 氏はこれを受け、砂などを自動的に集めて回ることのできる作品を作ろうとしたそうです。ですから「オランダの風土文化が氏の背中を押し、ストランドビーストたちは生み出された」のだとも言えます。

 私も「日本の風土文化が梶川の背中を押し、肯定的感情の体験を自動的に増やす〇〇が生み出された」と言われたいと思いますから、また1つ取組むべき課題が増えました。さあ、来年も頑張ろう!

「癒してくれるだけで良いのに…」
「本当に、悲喜こもごもですネ」