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梶川義人の虐待相談の現場から

梶川 義人 (かじかわ よしと)

様々な要素が絡み合って発生する福祉現場での「虐待」。
長年の経験から得られた梶川さんの現場の言葉をお届けします。

プロフィール梶川 義人 (かじかわ よしと)

日本虐待防止研究・研修センター代表、桜美林大学・淑徳大学短期大学部兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。

急いては事を仕損じる


目には目を歯には歯を?

 学校での「いじめ」は、行為に注目すれば虐待の行為類型そのものだと言えます。そのため、私も注目してきたのですが、文部科学省による問題行動・不登校調査によると、令和4年度に全国の小中高校と特別支援学校で認知されたいじめの件数が68万1948件と、過去最多になったそうです。

 前年度から1割も増え、深刻な重大事態も217件増えて923件と最多だといいます。「いじめ防止対策推進法」の公布から10年もたっていますから、行く末が心配です。フランスのように、警察が教室にいる生徒を逮捕するような日がやってくるのでしょうか。

 フランスでは昨年「学校いじめ罪」が成立し、加害者に刑罰を与えたり転校させたりできるようになりました。同国の政府関係者は、この逮捕について「いじめっ子に非常に強いメッセージを送ることが目的だった」と述べており、国としていじめに厳しく対応する方針です。

 ところで、いじめ問題に悩む国は多く、何年か前になりますが、ユニセフ(国連児童基金)による「世界の13歳から15歳の生徒の半数にあたる約1億5,000万人が、学校において子ども同士の暴力を経験している」という報告に驚いた記憶があります。ですから、厳罰化したくなる気持ちも分からなくありません。

急いては事を仕損じる

 それに、1件のいじめには、何人もの人が直接的・間接的に関わるため、関係者数は件数の何倍にものぼり、社会的影響は大です。被害者と加害者、両者の保護者、教員、教育委員会、スクルーカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、直ぐ思いつくだけでも10人は下りません。

 既述してきた「傍観者」や「観客」も勘定に入れると、平均関係者数を低く「10人」と見積もっても、わが国では、年間681万9,480人の関係者が生まれていることになります。これでは、遠からずいじめが「日常のよくある風景」になりかねません。

 しかし、規制を強めさえすれば良いという単純な問題でもありません。実際、規制を強化する埼玉県虐待禁止条例改正案が波紋を呼んでいます(毎日新聞デジタル「『生活できない』埼玉県の“子供留守番禁止条例案”に批判相次ぐ」(2023年10月8日最終更新)
 私はやはり、EBPMのロジックモデルを明らかにしつつ臨むことこそが肝要だと考えます。根拠の1つは、児童虐待の相談対応件数について、国が「非該当」は計上しないとしているものの、いくつもの自治体は非該当も含めた件数を報告し続けている問題があります。

 つまり、ロジックモデルの出発点「①現状把握」で躓いているわけです。したがって、その後の段階へと進むには当然、慎重でなければなりません。それなのに、一部報道によると、件の条例改正案では、9歳以下の場合、子どもだけの留守番も登下校も子どもだけを残したごみ捨ても虐待とされるそうですから、やはり勇み足の感がぬぐえません。

「10年ほど前の写真です」
「これほど残酷だったとは…」