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ルポ・いのちの糧となる「食事」

下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

食べること、好きですか? 食いしん坊な私は、食べることが辛く、苦しい場合があるなんて考えたことがありませんでした。けれどそれは自分や身近な人が病気になったり、老い衰えたりしたとき、誰にも、ふいに起こり得ることでした。そこで「介護食」と「終末期の食事」にまつわる取り組みをルポすることにしました。

プロフィール下平貴子(出版プロデューサー・ライター)

出版社勤務を経て、1994年より公衆衛生並びに健康・美容分野の書籍、雑誌の企画編集を行うチームSAMOA主宰。構成した近著は「疲れない身体の作り方」(小笠原清基著)、「精神科医が教える『うつ』を自分で治す本」(宮島賢也著)、ほか。書籍外では、企業広報誌、ウェブサイト等に健康情報連載。

第154回 新宿食支援研究会主宰
第3回タベマチフォーラム

はじめに

 「最期まで口から食べられる街づくりフォーラム全国大会 ~ごちゃまぜ社会でつくる未来~(タベマチフォーラム)」が今年も東京・高田馬場、東京富士大学二上講堂で開催されました(9月1日)。
 3回目を数えたタベマチフォーラムは、新しく前夜祭「タベマチサミット」を加えるなど進化して、ますます盛会に! 全国の“タベマチ”ムーブメントを確認する催しとなりました。

自慢できるっていいな
誇れる仕事が起こすスパイラル

 新宿食支援研究会(以下、新食研)が「最期まで口から食べられる国、日本」をつくるため、国民全体で議論する場として2017年から開催しているフォーラム、通称タベマチフォーラムに今年も参加しました。
 新食研代表・五島朋幸先生(歯科医師)の開会の挨拶に続き、来賓の大熊由紀子先生(国際医療福祉大学大学院教授)のお話があり、以下の3つの基調講演と、講師と会場とのディスカッションが主なプログラムでした。

  • 人生100年時代とごちゃまぜ社会
    雄谷良成先生(社会福祉法人佛子園理事長)
  • 地域にとけこむ栄養士
    山口はるみ先生(特別非営利活動法人ぽけっとステーション代表)
  • 人を良くすると書いて“食” ~歯科が“食”をどのように支えるか考える
    河瀬聡一朗先生(石巻市雄勝歯科診療所所長)

 登壇された先生方のお話をすべてうかがって、筆者が感じたのは誇りをもって仕事を語れることの素晴らしさ。つまり「自慢できるっていいな」ということです。
「この映像を見てみてください」「こんなフローになります」
 先生方がお話を進めながらパワポを指し示すとき、本当にうれしそう。示された写真や資料は「百聞は一見にしかず」という感じで、“食べられる街づくり(タベマチ)”に尽力した結果、街が、人がどのように変わるかを見せるものでした。
 先生方が自慢していたのは、自分のことではありません。たくさんの人が“タベマチ”に関わり、ケアを提供する人も、ケアを受ける人も変化の“渦中の人”としていきいき生きる様子を誇っていたのです。
 その誇りを自らの情熱・仕事の糧として、さらに“タベマチ”の次の手を打つ……それを続けてこられたのだと思いました。
 ですから今回のフォーラムでいちばんの学びとなったのは、誇れる仕事をしなければ、スパイラルは起きないということ。一直線に成果へたどるのではなく、スパイラルに、思いがけない巻き込み・巻き込まれがあって、よく変わっていくのが「ごちゃまぜ」だと思いました。
“タベマチ”に限らず、筆者の仕事も、市民活動もきっと同じです。こうしたフォーラムなどの場ではさまざまな手法があると知ることができますが、まず持ち帰るのは「やり方」ではないでしょう。
 ケアを受けている人の「この顔を見てみてください!」と言えるような結果に向かって、変化を起こさなければいけないと一途に思い、考え、動くことに尽き、実は、やり方はどうであっても構わない。
 状況や環境を言い訳にしないで、意思にかなう行動をしているか。誇りをもって立っていられるか、否か。肝心なのは、それですね。
 奇しくも来賓の大熊先生が「すべての人に必要なのは『居場所・味方・誇り』で、支えを必要とする人の『居場所・味方・誇り』を支えられるのは『真のボランティア魂・想像力・度胸』のある人」とおっしゃったことを思い出して、鳥肌が立ちます。
 誇れる仕事がしたい。それはたとえどんなにささいな仕事でも、“タベマチ”を思って打つ一手が“タベマチ”の歩みになり、私たちの人生を豊かにします。

 一方、これまでのタベマチフォーラムとの違いとして強く感じたことは、食支援に携わる若手ケア職の台頭です。新食研の30代メンバーの活躍も目立ち、そのような人たちが集客したせいもあるのか、情熱をもった若い参加者も増えたように感じました。
 少々意識的に地方から参加していた30代、数名に声をかけ、どのような仕事をしているのか、食支援やタベマチについてどのように思っているのか尋ねました。
 仕事は医療・介護に限らず、美容や飲食などの関係者とも話すことができました。みな一様に「身近に食べることを支える必要がある高齢者がいる」「QOLの土台として食生活を支援したい」「“食べる”が守れると、装う・交わるといった楽しみにつなげられる」などと話し、フォーラムでの学びや出会いに真摯でした。
 彼らの言葉から「“タベマチ”は街づくりの土台」と再確認させてもらえました。中年としては、若い実践者から触発されるのはとてもうれしいことでした。ぜひ筆者自身の市民活動に活かします。  

 今年もタベマチフォーラムで大変充実した1日を過ごしました。準備・運営に当たった新食研が抱く“タベマチ”の誇り、本当にすごいです! 2020年のタベマチフォーラムは9月6日の開催です。