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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
kawase@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第130回 会社員とケア活動を両立 
自分の手を通して、その人に何かを伝えることができるのはすごく幸せなことです

光江弘恵さん(51歳)
NPO法人ソシオキュアアンドケアサポート 理事
ソシオエステティシャン
(東京都・大田区)

取材・文:進藤美恵子

病気になったらなんで病人にならないといけないの?

「会いたくないから面会には来ないように伝えて。退院したら会いましょう」って。私が高校生の頃、心臓の病気で入退院を繰り返していた母の言葉です。当時は、病人は病人らしくという暗黙の了解のようなものがあり、ベッドの上では口紅を塗ることもできない。綺麗にしてお見舞いに来られる母の友人たちに、「退院したら会いましょう」と母の言葉をそのまま伝えていました。でも結局、お見舞いを断り続けて亡くなってしまい、友人たちと会うことは叶わなかった。

 もし女性がどんな状況の時でも、眉を描いたり、少し髪を整えたり、口紅をつけたり…、そういうことができたら、入院中でも友人たちを受け入れる気持ちでいたかもしれないし、喜んで会ったかもしれないと思って。病気になったらなんで病人にならないといけないのかと、その時に思いました。それが今の私の原点になっています。

 その後、ピンクリボン活動に力を入れている化粧品会社に就職しました。ある日、がん患者さんから「子どもの入学式に行くときにメイクの方法を教えて欲しい」と言われ、眉のない人にメイクをするのはどういうことだろうと自分なりに勉強を始めました。その頃、エステティック協会とフランスのコデス(codes)が業務提携をしてソシオエスティシャンの養成を始めるという記事と出会いました。まさしく私がやりたいと思っていたこと、知りたいと思ったのもこのことだという思いが一致したんです。

困難な状況にある方々への美容ケアをする仕事

 日本でソシオエステティシャン養成の第一期生として受講しました。ソシオエスティシャンは、私が思っている以上に広い範囲でたくさんの人たちを支援する活動でした。福祉、医療と学ぶ中で、社会福祉の最初の講座が高齢者でした。歳を取るのは誰もが平等に歳を取り、病気はなる人もいればならない人もいる。人は必ず歳を取っていく中で、介護について誰もが考えなければいけないことなんだなというのを学んだんですね。

 ソシオエステティシャンの活動は、医療・福祉分野で困難な状況にある方々に対して美容のケアを行うのが仕事です。私の場合は、がん患者さんの支援であったり、高齢者施設であったり、在宅でお母様を介護していらっしゃる方やそのお母様、母子生活支援施設とか、そういったところでの活動と被災地における支援活動という、大きくはその5つの分野で活動しています。

 その中でも今、高齢者施設での活動と在宅でのニーズが高い状況になっています。私一人ではなかなかニーズに応えることはできませんので、ソシオエステティシャンの仲間たちと一緒に活動しています。私は、ソシオエステティシャンの資格を取得して、すぐに活動を始めるのと同時にNPOを立ち上げました。それは、助成金申請や活動の場が広げやすく、ソシオエステティックを多くの方に知っていただくことで多くの方に社会貢献をしたいという思いからです。今年で11年目になります。

その分野でのプロフェッショナルでないとダメだと思う

 ソシオエステティシャンを目指している人たちの多くは、社会貢献をしたいという強い思いがあります。本当にその分野でしっかりやっていこうと思ったら、プロフェッショナルでないとダメだと思います。ボランティアも大事だけれども、ボランティアでは自己満足や自分の持っているものを無償で提供して終わりです。職業としてのプロというのは提供するだけではなくて、受けた方々の生活がどのように変わるのか、考え方や生き方が変わるのか、その先までも考えます。それを回りの人たちに広めて共有していくところまでするのがプロだと思うんですね。

 高齢者施設の現場では驚くことも多いです。必ずしも喜んでもらえることばかりではないと思ったのが、最初の驚きでした。なかには、「おじいさんが私の顔を見るたびに、隣の奥さんはいつも綺麗にしていると褒めていた」って。そういうことを言い出したりしてだんだんエスカレートしてしまったり…。みなさんがメイクして楽しかったね、ハンドケアで癒されたねと、多くはそれで終わるのですが、そればかりではないんですね。介護の現場というのは、奥深く、行くたびにいろんなことを考えさせられ、私にとって社会勉強の場だと思っています。

 この活動は、普通のエステティシャンでは経験しないようなことも経験させていただいているし、それによって自分が一生懸命取り組める活動です。喜んでいただいて自分も人生勉強になるというか、そういう職業だなと思いますね。ソシオエステティシャン一本で生きていく道もありますが、職業として確立していくのには越えなければいけない壁がたくさんあります。その中で、私はソシオエステティックを広めていく活動と自身がソシオエステティシャンとして実際に活動しながら仲間を増やしていくことで世の中に広まるのを目指しています。会社員として働く日を除いたお休みの日は、すべてソシオエステティックに費やしています。

もう一度、お会いできた時が嬉しい瞬間です

 私たちの活動は終末期にお会いすることも多いです。普通のエステティックの仕事ですと、一週間後や一か月後のお約束をすることもありますけど、介護の現場では、あまりお約束はありません。次に同じ施設に行った時に同じ方に会えたら、本当にお元気でいらっしゃってよかったなと思います。次にまたお会いできた時は、私の中ではすごく大きな喜びですね。

 自分の手を通して、目の前にいらっしゃる方が癒されたり、喜んだりしてもらえる…。もちろん喜ばれる人ばかりではないとしても、自分の手を通して、その人に何かを伝えることができるのはすごく幸せなことだし、それを本当にライフワークとしてこの先も続けていきたいです。それを一緒にできる仲間も増やしていきたい。私はいつも、「美は生きる力になる」と言っています。美しくありたいとか、美しくありたいと願う、美というのは、口紅をつけるだけで気が引き締まり、人と会う前にちょっと髪を整えるようなことも含めて、自分を前向きに持っていこうとする力を持っていると思います。そこを支援できるこの活動は、私にとっての生きがいです。

【久田恵の視点】
 ケアの視点というものが、様々な分野の新しい価値観を生み出し、様々なチャレンジを促しているのだと、実感させられます。人のケアとは本当に奥の深いものですね。