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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
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プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第41回② 堂園春衣 NAGAYA TOWER
ちょっと親孝行のつもりが12年。
設計には「人と人の触れ合いを生むスペース」を最大限に考えた。

NAGAYA TOWER
堂園春衣(どうぞの はるえ)
1982年横浜生まれ。東京で転職を考えていた27歳の時、医師である父から「NAGAYA TOWER」の構想を聞き、当時はあまり手伝う気もなかったが親孝行のつもりで立ち上げだけを手伝おうと鹿児島に戻る。助成金申請などの書類関係を始め、建物も設計段階から関わるなど実務を一挙に引き受ける。現在は「NAGAYA TOWER」の事務局長を務めながら、住人を見守っている。

取材・文:原口美香

―前回は医師である堂園先生が「NAGAYA TOWER」という、ちょっとかわった賃貸住宅を建てるようになったきっかけをお話いただきました。今回は実務を一挙に引き受けたという次女の春衣さんにお話を伺っていきます。

―春衣さんは何歳の時から関わってこられたのでしょうか?

 27歳です。当時は東京にいたのですが、転職しようとしていたら父から「書類を書くのを手伝って」と言われまして、ちょっと親孝行でもしようかなと鹿児島に戻ったら12年経っていました。
 補助金の申請が結構大変だったのです。そのうちに設計も関わるようになって。最初は10階建てくらいの大きな計画だったのですが、その規模ですと入居者の顔と名前が一致する雰囲気にはならないだろうということで、三分の一くらいに縮小することにしました。それでまた最初から計画を練り直して、という過程に携わっていくうちに建物が建ってしまい、そうこうしているうちにどんどん入居の方が増えました。
 計画書を書いていた2011年に、東日本大震災が起こったのです。建設も始まっていました。その時に「家族ってなんだろう」ということをよく考えました。家族や血縁関係に限らず、遠くの人より身近な人で支え合うことの大切さも感じました。それを「NAGAYA TOWER」で、助け合うまではいかなくても、そばに誰か知っている人がいるという安心感というものを実現させていきたいと。今、実際一人住まいの方も多いのですが、安心して暮らせるコミュニティづくりが出来たらと考えたのです。
 住宅と施設の間でいこう、ということも最初から話し合っていました。あくまでも主人公は住人さんであって、あくまでも住人さんの生活の場であって、私たちは管理する立場ではないということは一貫していました。私たちは共に走る伴走者になろうと決めていました。

―設計段階でこだわったのはどのようなところですか?

 住人の方が集うスペースを多くしようと設計しました。例えばみんなのリビングだったり、バルコニーを広めに取ったり、エレベータを降りたところにはちょっとしたお茶が飲めるスペースを造ったり。自分の部屋だけでは完結しない、みんなが共有できるスペースを多めに取って人が対流できるようにすることを重要視しました。お金を生まない空間ではあるのですが、それでも人と人が触れ合えるようにしたかったのです。直接的には関わりがなかったとしても、いつも誰かの気配を感じられる。顔見知りの人がいつもそばにいるという雰囲気にしたいということを、設計士さんと話し合いながら建てていきました。

―「NAGAYA TOWER」全体の構造を教えてください。

 一階は店舗が入っています。クリーニング屋さん、美容院、父が理事長を務める社会福祉法人が運営する、児童発達支援事業所「まふぃん(未就学児と小学生が対象)」、もう一つ、別の法人の中高生を対象にした児童発達支援事業所が入っています。二階には事務局とワンルームの部屋が10部屋。台所が共同でシェアハウスの形式になっています。三階に「ファミリーホーム 冨永さんち」が入っていて、里親委託されたお子さんを6人養育しています。三階から六階は普通の賃貸マンションで部屋は1LDK~2LDK。部屋によってはお風呂があったりなかったりですが、入れ替え制の共有岩風呂が2か所あります。三階には空中庭園といって広めの庭があり、上の階からはイベントをやっている様子を見ることができます。そこでは「まふぃん」の子たちと流しそうめんをやったり、バーベキューをやったり、お餅をついたり、スイカを割ったりしています。

―ありがとうございました。

―次回は、資金面のことや「NAGAYA TOWER」にかける堂園先生の思いなど伺っていきます。

食事会の様子。
様々な年代が一緒にテーブルを囲む。