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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
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花げし舎ホームページ:
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プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第29回③ 松本篝 NPO法人 ワンエイド 理事長
食べ物を提供するだけの場所ではなく、
「フードバンク」で出会った人と地域を繋ぐ。

NPO法人 ワンエイド理事長
松本 篝(かがり)
1966年横浜市生まれ。不動産業界で働いていたが、母が病気になったのをきっかけに仕事を辞めて介護と子育てに専念する。後に高校の友人だった石塚氏(株式会社プライム代表)からの誘いを受けて、家事援助サービスを行う「ワンエイド」に関わる。2011年「ワンエイド」をNPO法人化。座間市役所と連携し、地域での見守り、住まいに関する相談を開始。生活困窮者のためのフードバンク事業を立ち上げる。「ワンエイド」の理事長を務める傍ら、株式会社プライム(隣接の不動産会社)では営業として勤務する。


  • NPO法人 ワンエイド
    神奈川県座間市相模が丘4-42-20
    046-258―0002
    https://own-aid.com/

取材・文:原口美香


──前回は食の支援である「フードバンク」を始められた経緯を中心にお話を伺いました。 今回はその活動内容を教えていただきたいと思います。

──「フードバンク」に来られた方にお渡しする食料の目安はどのようなものでしょうか?

 一度にお渡しするのは、大体段ボール1箱くらいです。ケースによっても様々ですが決して「30日分、困らないようにお渡しします」ということではないのです。給料日前や年金の支給日前の本当に苦しい部分、本当に困っている時だけです。中には「もっと欲しい」とか「この商品は嫌だ」と言う方もいます。今はたくさんの人が困っていますから、すべて希望通りにということはできませんし、ダメなものはダメと断ることも必要かなと思います。そんな時はお話して分かっていただく。お渡しもしますが、頑張れるときは頑張ってほしい。企業からは実際販売しているものを無償でいただいているわけですし、預かっている以上は本当に困っている方にお渡ししたいと思うのです。日々、勉強になることばかりですね。

──月に200世帯の方が利用されているとのことでしたが、主に利用されているのは神奈川県の県央地域の方でしょうか?

 県外からもいらっしゃいます。新宿から歩いて来られた方もいました。「フードバンク」も各地にあればいいのですが、なかなかやられるところは少ないのが現状ですね。地域的なことだと私たちが知らないことが多いので、細やかなアドバイスまでは難しいんです。実際に、「その近くに~があるじゃない?」というような説明が皆無になってしまうので、地域柄であれば本当は理想的ですよね。うちは神奈川県限定というわけではないので、できる限りのサポートはしていきたいと思っています。

 食べ物に困っているということは、相当困っているんです。来られた方と話をして他の困りごとを聞いたりすると、お子さんが中学に上がるのに制服が買えないという悩みを抱えているということがありました。地域の情報は意外とSNSに上がっていないことが多いのです。入学する学校で卒業生の制服のバザーが開かれていることもありますし、一般には知られていない相談窓口があったりすることもあります。そういう時には、私たちが知っている情報をお渡ししたり、分からないことは調べて必要な支援に繋いだりしています。新しくこの地域に引越されて、知り合いもいない高齢者の方には、「無料で使えるこういう場所がありますよ」とお知らせしたり、子どもが受験生なのに塾に通わせるお金がないという親御さんには、無料で教えてくれる塾や、こども食堂などをご案内したり。「困窮ってなんだろう」と思った時に、食べ物がないとか、住まいが借りられないということもありますが、心の困窮というものもあるんじゃないかと。コロナの影響もありますが、今は本当に厳しい時代。他人の話を聞いてあげられる余裕のある人も少なくなっているようにも感じます。だからここは「フードバンク」だけで終わらずに、孤立しないような支援を考えられる場所でもありたいと思っているのです。

「フードバンク」の活動から講演をさせていただく機会も増えて、小学校でお話した後にお子さんと保護者の方が家にあった食べ物を持ってきてくださったり、以前「フードバンク」を利用した方が「あの時はありがとう」と寄付してくださったりするんです。優しさの循環ですよね。少しの優しさが世の中を豊かにしていくのだと思います。

──「ワンエイド」は心を豊かにしてくれる場所でもあるのですね。 次回、最終回では地域での活動と松本さんの今後の夢などについて伺っていきます。

「相談業務」は表面的だけではなく
どんなことに困っているのか慎重に
耳を傾ける